朔日と静寂
二十三時五十四分、ふたりで寄り添うこの部屋は、しんと静まっている。
あの日、彼の眼差しの揺らぎを見つめたから──だから今日のこの日、准はそっと口を噤む。
話す言葉、聞く言葉、どちらも今日は嘘になってしまうことが恐ろしいと。そう怯える彼を不安がらせないように。
真実らしく述べ立てたほんの一瞬の後に『実は嘘でした』と云えば簡単に反古に出来てしまう、それが許されるという今日という日。
だから、言葉の潔白を証し立てるのが難しい言葉というものは、今日は大事に仕舞っておく。
そうして、同じように口数の少なくなる彼と、准はただそっと寄り添う。
体を添わせて、手を握って、指を絡めて。
触れ合う暖かさは、それ自体は何も語らないけれど、けれど決して嘘になってしまうこともないから。
だから今日は、ふたりは黙ったままで寄り添う。
寄り添って、そしてその体に腕を回して、准は愛おしい人を言葉はなく緩やかに抱き寄せた。
さらりと立つ衣擦れの音。抱き寄せる腕になよやかな体が預けられて、甘えつくような頬ずりが肩の辺りに触れる。
くすぐったい暖かさ。何て愛おしい。
胸の奧から喉元へ、溢れ出しそうになる想いを、准は唇の裏でそっと宥める。
そしてその代わりに、唇から生み出される、けれど今日であっても決して偽りにならない甘さを分け合おうと、糸色の頬に掌を添えた。