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何でもない日賛歌

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まる月ばつ日、今日まーちゃんが猫を拾ってきた。
大きな大きな猫だ。
いや、今日拾ってきたというのには吾平がある。いやない。吾平って誰だ、語弊だろ、などという微笑ましい脳内漫才は置いておいて。
ぼくはつい最近まで諸事情によりまーちゃんの家から消失していた。といっても数日だけど。
ぼくとまーちゃんをほほえましく見守ってくれているおじさまおばさまの元へ近況報告をしに。
んで、ついでにぼくの「にもうと」に顔を見せに。まーちゃんの家には来るなと言ったらば「じゃあおまえが来いはたらきあり」と蔑まれたので仕方なく。相変わらず義母さんのお父様には嫌われているけど最近はその視線も心地よくなってきた。うむ、順調に人間失格の道のりを辿っているようだぼくの脳は。嘘だけど。慣れるわけないですから。
というわけでおばさまとおじさまの熱心な勧めによりぼくは数日実家帰りしてしまうことになった。全くもってNOと言えない日本人の典型だと言えよう。
しかし何事も無かったと(思われる)数日の間にまーちゃんのおうちでは化学変化が起きていた訳だ。

「ただいま」玄関の扉を開けたとたん強烈な腐臭と鉄錆の匂いが同時に漂ってくる。
思わず顔を顰めて口を覆い、「まーちゃん?」呼びかけてみる。
しばらくしてばたばたと慌ただしい足音と共にまーちゃん登場。ふりっふりのエプロンとべったりついた血痕がアバンギャルドだね、まーちゃん。
「みーくん、みーくん?みーくんっ!」
そのまま全身の力を込めた包容。まーちゃん痛い痛い骨折れる。まったくまーちゃんは何回「みーくん」を入院させれば気が済むのやら。
「まーちゃんどうしたの?」できるだけ声が震えないように努力しながら訊いてみる。
「みーくんがいなくなっちゃったの。だからみーくんを呼んでたの。」
ああまったくもって明解な回答だこと。
「まーちゃんのお呼び出しに応えてみーくん参上いたしましたよ、だから離してくれないかなまーちゃんそろそろ川が目の前に見えそうだ。」三途の。
あーいと上機嫌に返事したまーちゃんはそれでも手離さずにぎゅうぎゅう締めつける腕を解いてにっこり笑って「おかえり、みーくん!」
嘘偽りの一切ない可愛らしい笑顔にやっぱりまーちゃんは可愛いなあとか多少ずれたことを考えながら最も重要なことを訊く覚悟を決めた。
今度は一体どんな惨状が待っているのやら。
「それでねまーちゃん」「なんだいみーくん」久し振りのみーくんに頬ずりしながらまーちゃんはくぐもった声で答える。うう、訊き辛いなあ。
「なんだか凄い匂いがしてるんだけどこれはどういうことだい?」
それにまーちゃんはきょとんとぼくを見て「だからー、みーくんを呼んでたんですー」それだけで再びぐりぐり再開。
ぼくを呼んでた、か。たった数日だったのになぁ。まったくまーちゃんはこの街の病巣みたいな思考をしているね。とかなんとか考えても仕方のないことをぼんやり考えながら「まーちゃん奥に誰かいるの?」まーちゃんを引き摺って歩く。まーちゃんもぼくに合わせてずるずる歩く。「んとねー、ねこ!」
昔ある一定期間だけ使われていた和室を開く。
そこにいたのはやはり。「まーちゃんこれがねこ?」「うん、そう!」鎖で手足を繋がれた、大きくて丸い目を見開いた、伏見柚々という名の「ねこ」だった。


まーちゃんはぼくが帰って来たことに安心したのか眠ってしまった。
まーちゃんの睡眠時間は長い。下手すれば丸一日眠っている。そしてどんなことをしても起きることがない。外界を拒絶しているみたいだ、ぼくが言うのもなんだけど。
「柚々、話せる?」
こくり。柚々は滅多に声を出さない。枯れたハスキーボイスが嫌いなのだと言っていた。
腐臭はまだそこかしこに漂っている。ぼくはってきりまーちゃんが柚々を××××した匂いかと思っていたがそうじゃないらしい。
何せまーちゃんは手段のためなら結果を選ばない人だからな、ん?逆?いやいやまさかまーちゃんに限ってそんなことはございません。だってほらぼくの小指には今もその名残が引っ掛かってるし。具体的には「みーくんと赤い糸で繋がりたいのです、うきゃー」などという甘々な声と共に思考して互いの小指に糸を通すという普通なら選ばれない結果を選びとられた訳だし。
「とりあえずこの匂いはどうしたの?」あ、まーちゃんのことなら心配なく。まだ起きては来ないよ。
「だ、だだいどころ、マユ・・・さん、料理してた」
成程。みーくんが帰ってきた時のためにと料理をしていた訳だな。それは悪いことをした。
「ここに、来たら、もう匂いして、してた」
「柚々はここに連れてこられてどれくらい?」
「まだ、いちにちたってない」
「家族は?」
「わからない」
今が夕方で、一日経ってないってことは・・・よしよしこれなら平穏無事に済みそうだ。
柚々のご家族様は以前柚々が事件に巻き込まれてから妙に警戒している。お泊り一晩も許されないくらいだ。
よし、と自分に号令をかけて「鍵を取って来るから」じゃらりと重々しい音を立てる鎖の鍵。
「い、いってらっしゃい」
柚々の声を背中に受けてぼくは家探しを開始。多少音をたててもまーちゃんは気がつかないので遠慮なく。
玄関、応接間。寝室。あとは・・・台所。
台所に入った途端とんでもない腐臭が鼻をつく。折角慣れてきたところだったのにそれを上回る凄まじい匂いだ。
台所には魚の腐乱死体がごろごろ転がっている。数日経過したものもあればまだ新しいものも。
なるほど、腐臭と血痕はこれのせいだったのか。とりあえず両者が人間のものではなかったことに安堵を覚えながら台所を探る。
まーちゃんがここで料理をしていたということはここに鍵を置いている可能性が高い。
血塗れの包丁を除けて、ぐちゃぐちゃになったまな板の下を見て、流しの血溜まりの横を通り、お目当てのものを発見。
「柚々、あったよ。」
小さな銀色の鍵を翳して見せる。柚々がちょっとだけ眩しそうな顔をした。
がちゃがちゃと両手足の拘束を解いて立たせてやる。拘束されてからそう時間が経っていないから簡単に立たせることが出来た。
「行くよ、柚々・・・」言いかけてぎょっとした。白い靴下に血痕がべったりついていたからである。
「こ、これマユさん、落とした、踏んで・・・」
参ったな、これじゃご家族から責められそうだ。外を歩く分には問題ないけれど警戒中のご家族の目を誤魔化すのは至難の技だろう。
「仕方無い、替えの靴下を買ってくるから柚々は他にも汚れてるところがないか確認しておいて。
こくりと頷く彼女を尻目にばたばたと家を出る。
まーちゃんが起きてくる可能性はなくとも柚々のお家の方がどんな心配をなさるか分かったもんじゃないから多少急ぐ。
徒歩五分程度のコンビニに飛び込んで靴下を一足購入。さっさと戻ろうと踵を返せばそこにはなんと柚々がいた。多少驚かない訳でもないこともなくぼくはつんのめるようにして駆けだそうと準備万端だった足を止める。
「柚々、どうしてここに?」
『来た』「ほうが」『早い』「と」『思った』「から」
ぶつ切りにされた古いラジオみたいな声が手帳と共に示される。ああ、手帳見つかったんだ。
作品名:何でもない日賛歌 作家名:nini