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04:あいしてるが手の中で転ぶ (エナメル)

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 しゅー、と鍋の底が焦げかける音がして、臨也は我に返った。調子が狂う。塩を振って、しばし考えた後、白い小さな小鉢を二つ取り出した。多分マイルは食欲が湧かないだろうし、臨也の記憶の通りなら、それはクルリにも言えることだった。クルリもマイルは、どちらかが体調を崩して食欲がないときは、もう一人もあまり食べようとはしなかった。双子の共時性か何かだろうか。興味はあった。けれど、興味以上には至らない。指輪にぶつかって、皿がかつり、と音を立てる。今更、指輪がクルリの髪に引っかからなくてよかったと思った。かつては、気にしなかったことだ。しばらく考えて、両手から指輪を外してジーンズのポケットに突っ込んだ。波打った模様があるだけのシンプルな小鉢に、水気の多いお粥をよそう。最後にしゃもじについた米を舐めてみた。素っ気ない味がする。冷蔵庫から梅干しを出して、一つずつのせると、見た目はそれなりにマシになった。

 自室のドアをノックする。しばらくしたら、がちゃりと音を立ててドアは開いた。目の前にはクルリ。両手がお盆で塞がっていたから開けられなかった、なんて、わざとらしい言い訳にしかならないとわかっていたから、言うのは止めて、代わりに「ありがと」と臨也は口にする。
「マイルは……寝てるか」
 こくり。ちゃんとジャージに着替えたらしいが、脱ぎ散らかされたセーラー服が膨らんだベッドの足下に散らかっている。ジャージは臨也の物だったから、マイルには大きすぎるだろうがしかたない。自分のベッドの光景を、客観的に見ようとして臨也は止めた。クルリはベッドの横に座り込んだままだ。
「熱は?」
 テーブルの上にお盆を置いて、ハンガーに制服を掛けてやる。ブラインドの隙間から光は入ってくるとはいえ、部屋の中は薄暗い。クルリは枕元にあった体温計を臨也に渡す。文字盤に出ているのは38.6の数字のみ。クルリの目はすでにマイルに向いている。常識的に考えて、池袋から新宿まで来るぐらいなら、家で休むか病院に行くのが普通だ。
「なんでわざわざここまで来るかなおまえらは……」
「……向こうじゃ一人だから」
 っ、と臨也が言葉を呑み込むのを見やるクルリの目はどこまでも冷静だった。その目が焦燥を映すのはマイルに何かあったときぐらいだろう。そうだ、マイルとクルリは二人で『一人』なのだ。臨也の影響を受けた二人はそれを望み、選んだ。それは二人の他の拒み方。臨也はそう理解している。けれど、今のクルリの言い方じゃ、まるで――――。ああ、やめよう。
「マイルが寝てるなら、クルリだけでもお粥食べとけ。薬取ってくるから」
「……解」
 臨也は臆病であるからこそ、判断が早い。


 寝室から出て、棚の薬箱に手を伸ばせば、風邪薬も、冷却シートもすぐに出てきた。けれど、臨也は寝室に戻らずに、そのままソファに仰向けに倒れ込む。無論ベッドほどとは言えないものの、柔らかいソファは衝撃を吸収してくれる。
「あーあ……今日波江に来るよう言っておけばよかった」
ジーンズのポケットの銀の指輪が、足に擦れるのを感じる。指輪を外した指には相変わらず違和感があった。二つのリングを取り出すと、部屋の蛍光灯で鈍く光る。手のひらで握りしめてしまえば、もう見えない。
「俺はどうしたいんだろうねえ」
 クツリ、と臨也は感情を噛み殺すように笑う。多分答えは知ってる。知っているけれど、そこに辿り着かないという選択肢も、臨也には用意することができた。残念なことに、逃げることはいつだって得意だった。



あいしてるが手の中で転ぶ(エナメル)
折原兄妹