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04:あいしてるが手の中で転ぶ (エナメル)

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 インターホンのカメラ越し。ぐったりとしてクルリに背負われたマイルの姿に、臨也は全身から熱が引くのを感じた。クルリが「マイルが、」と呟いた瞬間にはもう、臨也はドアのロックを外していた。この二人が来るなんて、自分にとってろくなことにならないとわかっていたのに、無意識の行動は迅速だった。その行動は情報屋の折原臨也のものとしては愚の骨頂でしかなかったし、臨也自身、それを理解していた。クルリの顔が異様に青白かったからだとか、クルリの首筋に顔を埋めたまま動かないマイルの顔が異様に赤かったからだとか、そういうのは言い訳になるどころか、傷口を抉るナイフでしかないのだということも。「兄」というのは一種の属性であり、役割であり、そして臨也の望まない日常だった。
 それなのに、というべきか、ドアを開くと、臨也の手は両手でマイルを抱き上げていた。マイルに外傷がないことを瞬時に確かめる。セーラー服のプリーツがしわくちゃになっているけれど、それは恐らくクルリがここまで背負ってきたからだろう。クルリが、安堵したように息を付く。前に抱き上げたのがいつだったのかは定かではないけれど、重い、と思った。それと同時に、こんなに小さかっただろうか、とも。それから「イザ兄……?」と、潤んだ目で見上げてくるマイルの額に手を当てて、臨也は眉を顰めた。熱い。そのままクルリに視線をやると、「朝から」との答えが返る。想定した『最悪の状況』には至らなかったことに安堵する自分を叱咤して、臨也は急いで屋内へ戻った。クルリにドアを閉めるよう言うのは忘れずに。
 書類が散乱した仕事部屋を過ぎて、寝室へ。ただっぴろいベッドにマイルを横たえて布団を被せると、寝室の入り口で呆然として立っているクルリの頭をくしゃり、と撫でた。クルリは猫のように享受する。そう、借りてきた猫のように。その非が自分にあるのは知っていた。
 話を聞けば、今日の朝から体調を崩していたのに、マイルが学校に行くと言い張ったらしい。結局、出かける前に倒れてしまったということだったが。聞きたいことも、言いたいことも、たくさんあった。けれど、クルリに体温計とパジャマ代わりのジャージを押しつけて、臨也は寝室を出た。臨也も同じように、途方に暮れていたのだ。ドアにもたれて、薬を飲ませなければいけないこと、それならその前に何かお腹に入れないといけない、ということに気付いた。双子が風邪をひくことは人並みにあって、その度に臨也が看病していたのだから、するべきことはわかっている。それなのにどうしていいのかわからないのは、結局臨也が距離を測りかねていたからだ。昔は、何も考えずにいられたのに。