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友人マリオと夏合宿

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ぎゃー!ああーっ!?嘘だろ?!何この孔明の罠ーっ!鬼畜すぎんだろっ!!

騒がしい声が廊下にまで響いていた。そのあまりな騒々しさに女子高生でありながら監督を務める相田は額に青筋を立てる。
誠凛高校の監督として、これは叱り飛ばさねばならないレベルの煩さだ。それでなくとも同じ旅館にはライバルたる秀徳もいるのだ。恥ずかしい真似は断じて許すまじ。
叫び声の内容から、なんとなく何が起きているかは分かる。ゲームを持ってきていいか、と合宿前に問い合わせてきた部員に、体力つけろと言いながらも疲労しない思い出作りになるかと許可を出したのは相田だ。
なので、意を決して襖をスパンと開けた。





「…黒子くん?」
「はい。」
「…これ、どういう意図で持ってきたの?」
「…カントクなら分かってるんじゃないですか?」
「確かに、合宿だからできることよね。」
「気に入っていただけるかと思ったものですから。」相田は、なんと言ったらいいものかと額に手を当てて深く息を吐く。
「全く、人の仕事増やしてくれちゃって!」
「ボクらだって寝る以外バスケ漬けですし。…それに、バスケの絡む仕事ならお好きでしょう?」
「言ってくれるじゃない。」
ニヤリとふてぶてしく笑うと、黒子の目の色が和らいだ気がした。


襖を開けて部屋に戻ってきた火神を、いつもの無表情で黒子が迎えた。
「お帰りなさい、火神くん。マリオはやったことありますか?」
「は?」
「今、皆さんでゲーム大会をやってまして。誰もひとつもクリアできないんです。」
「はあっ?!マリオって、ビデオゲームのあれだよな?誰もひとつもクリアできないとかマジかよ?」
「マジです。」
画面の前ではバスケ部の面子が雁首揃えて固唾を飲んでいる。と、懐かしい電子音と共に絶叫が轟く。
うるさいわよ!と、相田の叱責が飛び、
「なんでカントクが部屋に?」
と言う疑問に黒子は首を振る。火神はなんとなく、誤魔化された気がした。

クレイジー、とか英語で誰かさんが画面に向けて悪態をつくのを聞きながら、相田は黒子に尋ねる。
その目は決してゲーム画面から外さないままだ。
「あれ、帝光で流行ったの?」
「はい。というか、キセキの世代と呼ばれた彼らの間でですが。」
「…どうしてそうなった…?」
「初めはボクが赤司くんに薦めたんです。ちょうど某動画サイトで流行っていたのを黄瀬くんが教えてくれて、それでまあ、赤司くんにもできないものとかないかな、って。黄瀬くんがROMソフトも貰ってきてましたし。」
「…結果は?」
「…三回目で必ずクリアしてました。そしたら、今度は自分で作るようになって。それがあれです。桃井さんとそれは楽しそうにゲームデザインしてましたよ。」
「…どうしてそうなった…」
「一軍全員には必ずプレイさせてました。ROMも希望者にはあげてましたね。最終面は赤司くんの傑作だそうです。孔明の罠はほとんど桃井さんの策ですが、その面だけはトゲを増やした程度だそうで。ボクはホラーハウスに意見したくらいです。」
「お前もかよっ!!」
プレイ画面を見ていた日向が思わず叫んでしまった。
相田はそれに反応せずに続けて黒子に訊ねる。
「これ、クリアしたの?キセキの世代は。」
「三面くらいなら。全面クリアはいません。多分、赤司くんはしてると思いますが。彼は自分にできないことを強要する人じゃありませんから。」
「手本は見せてくれなかったのかよ?」
先ほど思わず声を出してしまったためか、日向が二人の傍で会話に参加したが、相田は厳しい目で、それはなかったはずよ、と先回りして答える。黒子は頷いた。
「黄瀬くんがいましたから。」
「あー、コピーされちまうか。」
「ってゆーか、自分でクリアしてくれないと困るっしょ、あのゲーム?」
ひょい、と音がしそうなほど自然な軽妙さで三人の後ろから首を伸ばして、秀徳の高尾が笑顔を見せた。
「…なんでいるのかしら?」
相田が笑顔で青筋をたてて問うと、秀徳の1年レギュラーはホールドアップをして眉を上げた。
「ども。お邪魔してスミマセン。でも楽しそうだったからスゲー気になっちゃって。そしたら超オモシロイ練習やってんだもん誠凛さんてば。や、さっきの話だと帝光かな、やってたの。キセキの世代、やっぱ面白いわ。」
「…練習?」
日向が怪訝に呟くと、相田は溜め息をついた。
黒子も無表情ながら咎める。
「高尾くん、喋りすぎです。」
あ、やばかった?あちゃー、と頭を掻いて苦笑しながら場の責任者、即ち相田を見つめる。
その、すまなそうな視線を受けた相田は苦笑した。
「いいわ、部長なら知ってた方が良いもの。説明してくれないかしら?」
「それでチャラっすか、有難うございます!」
ニカッと歯を見せた高尾は少し声を小さくして日向に説明をする。
チラリとゲーム画面を見つめる部員たちを見やったのは、話に聞き耳を立てる者がいないかを確認するためだろう。さすが鷹の目と言われるだけはある。ちなみにこのとき、ちょっと特殊能力持ちにジェラシーを感じた黒子が、今度唐辛子でもあげましょうか、とか考えてたのはどうでもいい後日談である。
「えーと、つまりですね、元々マリオって、合理的なルートを通らないとクリアできないゲームなんすよ。最適解を求めないといけないみたいな?で、あの改編マリオ、その最適の幅をスゲー狭めて、無駄な動作をしてるとすぐ死んじゃうようにできてます。孔明の罠とか、最小限の動きでジャンプしないとひっかかる配置でしょ?性格悪いなーと思う仕掛けもあるけど、あれ黒子が仕掛けたっしょ?欲を誘うヤツ。それ以外は本当、一番効率的なルートを通れば、っていうか通らないとクリアできない仕様になってる。で、その一番効率的なルートを見つけるためには、どれもバスケに必要な能力を身につけてないと駄目っぽいんです。」
え、と日向が瞬いたとき、歓声と拍手が沸き上がった。いつの間にかプレイヤーは火神から木吉に替わっており、10回目で漸くクリアしたぞ、と喜んでいる。相田が言葉を繋ぐ。
「まず集中力、それから時間配分、敵の配置を見て突破する周辺視野、敵や罠の配置と性質を瞬時に見抜く観察力、あとは罠にかからないために待たなきゃいけないところもあるから、忍耐力かしら?」
「大体そうっすね。それ全部同時にできなきゃとか本当に鬼畜ゲー。でもポイントガードが作ったって言われると納得するゲームっす、アレ。パスワークのルートとかオレだけがわかってても試合じゃ役に立たないですもん。どういう意図で回したパスか、ゲームメイクがどうなってるか、ある程度はチームメイトに理解してて貰わないと困りますから。」
と、ふと思い出したらしい。高尾が吹き出した。
「てゆーか、アレ緑間もやったの?真ちゃんがゲームとか似合わねーっ!どんな顔してやったんだよ!多分死にまくったんだろーけど、やべ、想像したら笑い死ぬ!!」
ケラケラと笑いだした高尾にトドメを刺すかのように黒子が呟く。
「やる気のない最下位争いしてた人(紫原くん)に先に進まれてからは必死になってましたよ。一番やりこんでました。一番下手でしたけど。」
ギャハハハ、と高尾は腹を抱えて床に転がった。
作品名:友人マリオと夏合宿 作家名:八十草子