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ヨギ チハル
ヨギ チハル
novelistID. 26457
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Perfect morning

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 さりさり、と肌を剃刀の刃が滑る音が耳に心地良い。汚れとクリームが刃にたまると、清潔な布でふき取る。また刃を宛がう。その繰り返しだ。静かな部屋の中で、さりさり、さりさり、と微かな音だけが響く。お互いの息が触れ合うほど近くに顔を近づける。キスをするわけでもないのに、これほど顔を近づける、ということもほとんどないだろう。キングの目が閉じられているので、ゆっくりと顔を観察することができる。思ったよりも長い睫毛、精悍な顔つき、上向いた顎のラインなどは本当に美しいと思う。つう、と指先を走らせる。やはり美しい。少し見惚れながら、トレイは剃刀を握っていた。
 最後に顎と鼻の下に剃刀を当てると、もう一度蒸しタオルで、顔全体を拭う。仕上げにローションを叩いて、肌を引き締める。これで一通りトレイの髭剃りは終わった。
 つるつるときれいになった頬にトレイは頬擦りし、キングの鼻を軽く噛んだ。
「お待たせしました。終わりましたよ、キング」
 キングはベッドから起き上がり、首を回すとゴキリと派手な音がした。やはり緊張していたようだ。トレイは満面の笑みで、自分の髭剃りの腕に酔っていた。
「素晴らしいですね。綺麗ですよ、キング。鏡、見て御覧なさい」
「男に綺麗なんて言うな」
「言いますよ。美しさに男も女も関係ありません。そもそも美しさというのは―――」
「……腹、減ったな」
 トレイの言葉を聞き流しながら、洗面所に向かう。キングは今使ったタオルと昨日汚したシーツを、まとめて洗濯籠に放り込んだ。洗面所の鏡を覗き込む。棚の中に使った道具を几帳面に閉まっているトレイの姿が写りこんでいた。鏡の隙間から、顔の仕上がりを確認する。なるほど、悪くない。トレイが自画自賛するのも分かるような気がする。自分で剃ると一ヶ所か二ヶ所は必ず小さな擦り傷を作ってしまうが、それもない。
「次からトレイに剃ってもらうかな」
「毎回私がするのですか? 嫌ですよ」
 ふふ、とトレイが笑った。制服を着て、赤いマントを羽織る。髪が乱れていないか、マントに曲がったところがないか、お互い向き合い確認する。よし、問題ない。時計を見れば、すでに十一時を回っていた。
「リフレ行きましょうか」
「あぁ」
「たまにはブランチもいいものですよ」
「そうだな」
 部屋の入口で、ちゅ、と唇に軽いキスをしてから、二人は寮の部屋を出た。



【終】
作品名:Perfect morning 作家名:ヨギ チハル