日常の一場面
「あー、ダリぃ……」
ベッドの上から余計なものを全部下ろし終わって、それをなんとか狭いスペース内に収めようと苦心しているウォルターの口からは、ひっきりなしにこの言葉が漏れる。
さすがに少しウザいくらいだ。
その言葉通りに動きも緩慢で、途中で手を止めてはまた天井を見上げてぼやいて、やる気のなさそうにしぶしぶと手を動かすことに戻る。
「ダリぃー……」
「……」
宿題があることを思い出して机に向かっていたアンディは、その手を止めて、振り向いて冷たい声を投げる。
「早くしないと寝る時間なくなるよ」
せっかく片付けたのに、そこで寝られないのでは、意味がない。
「あーあー、わかってるって。……でも、ダリぃな……。お、アンディ、この服着るか? 俺もういいんだけど」
「どれ? ……うん、着る」
掲げて見せたTシャツを手にウォルターが近付いてくる。
「雑誌捨てていい日っていつだったっけ」
「もう過ぎたよ。この前の水曜日。次は……いつだったかな……」
「また2週間後か。ダリぃな。ってか、アンディ、宿題見てやろっか?」
「いいからさっさと片付けろ」
脇から机の上に広げたノートを覗き込んでくる相手の顔を手で押し退ける。
それが片付けから逃れたいためだとアンディにはわかっている。
痛そうに頬をさするウォルターが服を差し出す。
アンディはそれを受け取って広げて眺め、確認し、膝に置いてたたみ始めた。
そしてぽつりと言う。
「洗濯したいな」
「俺も結構たまってる。土曜に行ってくるから、おまえの分も出せよ」
寮生活で洗濯機がないに近いので……2台あるがそれは古くて使いにくいうえにそれでもしょっちゅう誰かが使っている……近所のコインランドリーなのだった。
アンディはきっぱりと首を横に振って言う。
「いい。多いし、ボクはボクで行ってくる」
「じゃあせめて一緒に行こうぜ」
「……別に、いいけど」
けど、何か意味があるんだろうか、それは……などと思う。
別々に行っても同じじゃないか。
混んでいたら困るから時間をずらしたほうが正解じゃないのか。
でも、ウォルターがいかにも嬉しそうにニッコリ笑ったので口に出しそびれた。
ウォルターはそのままニマニマと笑う。
わずかに頬を赤くして、照れたように。
「なんかいいな。こういうの。本当に、家族みたいでさ」
「……」
ぽかんとしてウォルターを見つめて、アンディはすぐにその目を嫌そうに細めて、ぷいっと横を向いた。
(えー……何この人……恥ずかしい……)
なんでこんな嬉しそうに、なんでそんなこと言うの、なんでボクに言うんだよ……と呆れ返る。
「やっぱり、ボクはひとりで行く」
そっぽを向いたままムスッとして言うと、ウォルターがあたふたとする。
「なっ、急になんでだよ、おい!」
「別に。いいから早く片付けなよ。あと、邪魔」
「……ハイ」