日常の一場面
バサッ、バサバサッ。
アンディは手に触れた服を片っ端から下に放り投げる。
「おい、ちょっ……アンディ!!」
下からウォルターの抗議の声が聞こえる。
「ちゃんと受け止めるから放り投げんな!!」
手を止めて二段ベッドの上から見下ろすと、『ほら』とウォルターが両手を差し出して立っている。
「俺さっきそう言っただろーが!!」
アンディはふうとため息を吐く。
「めんどくさいな……」
ウォルターが自分のベッドの上に積み上げた物を二段ベッドのハシゴをのぼったりおりたりして片付けると、時間がかかる上に、かなりうるさい。
ベッドはギシギシいうし、ハシゴだって音を立てるしで。そこで、見かねたアンディが上にのぼってウォルターの手に渡すことになったのだが。
「どうせ服だからいいじゃん」
「いや、服はいいんだけど……本とかCDとかもあるからさ。おまえ、勢いでぶん投げそうだし」
「投げないよ、それは。大丈夫」
心外だ。
手伝ってあげてるのに……とアンディはムッとする。
こんな服なんか1枚ずつ丁寧に渡していたら、いったいウォルターのベッドのが片付くのはいつになることやら。
手早くかき集め、ボールのように大きなかたまりを作り、下で待つウォルターの頭にどんと乗せる。
「はい」
「家庭内暴力反対……」
服のかたまりがほどけてウォルターが布まみれになる。
その布の向こうからウォルターの泣きそうな声が聞こえてくる。
続いて本の山を作りながら、アンディは呆れて言う。
「どこが『家庭内暴力』だよ。誰と誰が家族なのさ、ウォルター」
「暴力は否定しないんだな、アンディ」
頭に山と乗せられた服を引っぺがしながら、ウォルターが恨めし気に言う。
そんなウォルターを上から見下ろして、アンディは真面目な顔でボソボソと言う。
「愛のムチ」
「えっ!?」
びっくりして目を見開いて固まるウォルター。
アンディは目を据わらせて言葉を続ける。
「……って、言えって、カルロが言ってた」
「ええっ!?」
また愕然とするウォルターを放って、アンディは本をまとめることに戻る。
「アイツこどもに何教えてんだ……」
「ウォルターならそれで喜ぶからって」
「えええっ!?」
ガッと下の段に足をかけて、ウォルターが二段ベッドの上に顔を出す。
「いやいやいや!! 俺はMじゃねえ! カルロのヤツ何言ってんだ!!」
さっき服を乗せたせいで乱れた頭を首を振ることでさらに乱し、長い前髪の隙間から覗く目をつりあげて、かなり必死に訴える。
アンディは冷ややかな目を向けた。
「下にいてよ。渡せないでしょ。放り投げるよ?」
「……ハイ……」