ベン・トー~if story~ vol.4
14部 紅の貴公子
10月に入った。この時期になると学校中が学祭の雰囲気に包まれてくる。
うちのクラスも出し物を決めるため会議が開かれていた。
「じゃあ、出し物が何がいいか意見のある人挙手!」
倉敷がそう言うと、何人かが一斉に手を挙げる。
「コスプレ喫茶!」
「メイド喫茶!」
「執事喫茶!」
お前ら、喫茶以外に何かないのか?
「どうせやるなら、他のクラスが真似できないようなのがいいんじゃね?」
クラスメイトの木瀬がそんなことを言う。
「具体的には?」
「例えば…そうだな、クラスメイトを変装させてバラバラに校内を巡回させて見付けたらクイズを出してカードにスタンプを押してそれが一杯になったら景品を出す、とか?」
木瀬、凄い具体的だな。
「それだと時間がかからない?交代も大変だろうし」
クラスメイトの一川が言う。
「そうか、だよなぁ…」
「うーん、藤島君。何かない?」
「俺?」
倉敷、無茶ぶりはやめてくれ。
「そうだな…」
結局、木瀬の意見が採用された。皆で案を練りに練ったため、時間をくってしまった。
急いで部室へと向かう。
「すいません、遅くなりました」
「藤島、やっときたか」
「学祭の会議が長引いて…」
「急ぐぞ。今日は隣町まで出るからな」
今日は遠征の日だ。隣町のスーパーで全国B級グルメ弁当祭りというのを開催しているらしい。せっかくなので今回は俺も参加することにした。
隣町へ来ると既に多数の狼達が集ってきていた。
「思った以上にいますね…」
「このような企画は滅多にないから、集まってくる狼の数も当然多くなる」
四人でスーパーに入ると見知った顔がちらほらと見える。
「変態、お前もやはり来たか」
「変態じゃないって言ってるだろ」
「今やあの町じゃお前の二つ名は『変態』で通っているぞ」
佐藤と、あれは…二階堂と言ったかな?が会話をしている。
「なぁ、佐藤。お前の二つ名って…」
「藤島、お前まで俺を変態扱いする気か?」
「い、いや…ただどうしてそんな二つ名なのか気になったってだけだ」
どうも、不本意な二つ名らしいな。
「教えてやろうか?」
二階堂が話しかけてくる。
「やめろ、やめてくれ!」
佐藤が必死で止めようとする。
「佐藤…ごめんな」
直後、ノォォォォォォーーーッ!という絶叫が響いた。
やがて半額神がやってきて弁当にシールを貼り付けていく。
半額神が去り、戦いの火蓋が切って落とされた。
一斉に駆け出す狼達。俺も続く。
狼達の熾烈な戦いの中、一際異彩を放つ戦闘スタイルの狼がいた。
そいつは俺たちと同じ西区の茶髪と接触する。と、瞬きした時にはヘタッとその場に座り込んでしまう茶髪がいた。あの茶髪が何もせずにやられるなんてあり得ない。俺はそう思った。何せ二つ名持ちに一番近いらしいしな。
茶髪を倒した男は次に坊主と相対する。決着は一瞬だった。謎の男が素早く翻弄するように坊主の周囲を動いたかと思うと、次の瞬間には坊主は背後から蹴られ吹っ飛ばされていた。
何を言っているのか俺にも解らないが、1つ言えるのは奴は強いということだ。
周囲の敵を駆逐した謎の男は今度は槍水先輩の方へ向かっていく。茶髪のようにやられるのではないか、そう思った時だった。先輩は奴と向かい合うと容赦のない蹴りを繰り出す。男も蹴りでこれを受ける。男は楽しそうに笑っていた。
「先輩!」
先輩の所へ行こうとする。
「来るな!」
が、先輩に止められた。だが黙って見ている訳にもいかなかった。俺は謎の男の方へ駆ける。
「おいおい、邪魔すんなよ。ボーイ」
男は呟くと移動する。一瞬だった。正面から向かう俺に対し、まるで消えたかのように気付けば隣にいて蹴りを放ってきた。
「が…っ!」
脇腹を蹴られ、呼吸が乱れる。重い。物凄く重い一撃だった。これでは坊主が一撃でK.O.されたのも解るというものだ。
「藤島!」
「さて、続けようか。ミセス?」
駆け寄ろうとする先輩を遮って男は言う。
「その語り口にさっきの言葉…お前は『紅の貴公子(レッドバロン)』か」
先輩が男の二つ名を言う。
「グレイト!正解だよミセス。そうとも、俺がレッドバロンこと神代誠だ」
レッドバロンと呼ばれた男、神代は恭しく頭を下げる。まるで英国紳士のように。
「聞いたことがある。お前は女子の狼には手を出さないそうだな?」
「正解のようで不正解だ。手を出さないんじゃない。俺と戦ったミセス達は戦意を失うのさ」
「どういうことだ?まさか、さっきの言葉と関係が…」
「ザッツライト!」
「あのような言葉で、か。それがお前の二つ名の理由…」
「どういうわけかミセスにはこれが通用しなかった。俺は思った。こんな女は初めてだってね」
そして、男は告げる。
「ミセス、君を俺の嫁にしたい」
「何…?」
耳を疑った。先輩も驚いている。
「ふ、ふざけんな…!」
立ち上がる。先程の一撃のダメージが予想以上に響いているが、それを押して立ち上がる。
「ボーイ?まだいたのか」
神代がこちらを見てくる。鬱陶しそうに。
「君がミセスとどんな関係かは知らないが、ミセスは俺が戴くよ。君のような弱者に彼女は似合わない」
言葉が出なかった。確かに俺は弱い。佐藤と比べても、まだまだだ。でも、これだけは譲れない。だって先輩は、俺の…!
「ミセス、また会おう」
そう言って神代は先輩の手の甲に自然に接吻すると弁当を持って去っていった。
「くっ…!」
悔しさと情けなさと色んな感情がごちゃ混ぜになってその場を動けなかった。先輩も同様なようで、その場に立ち尽くしていた。
結局、先輩はそのあとすぐに動いて弁当を取り、俺も何とか弁当を取ることができた。佐藤、奢莪、白粉もきちんと弁当を取れた。
「…まー、何だ。藤島、あんま気にすんなって」
奢莪がそう言ってくる。一部始終は見ていたようで気を遣ってくれているのだろう。
「そうだ。藤島は何も悪くない。先輩だって」
佐藤が言う。俺と先輩は互いに何となく気まずくて口をきいていない。勝ったというのに、こんなに弁当を味わえないのは久しぶりだった。
作品名:ベン・トー~if story~ vol.4 作家名:Dakuto