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ベン・トー~if story~ vol.4

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13部 誕生日


9月1日。始業式を迎えた。
LHRが終わると俺は急いでHP同好会の部室へ向かう。
「久しぶりだな…」
呟いてガチャリとドアノブを回して扉を開ける。
「あれ…まだ誰も来てないのか」
さすがに急ぎすぎたか。誰の姿も見当たらなかった。仕方がないので椅子に腰かける。
中々、皆が来ない。掃除当番か?待つうちに眠くなってきた。そういや朝、早かったしな。


「……ん」
どれくらい眠ってしまったのだろう。窓から夕陽が射し込んで、開けた窓から運動系の部員の声が聞こえてきた。
「…先輩も、佐藤達も、来てないのか…?」
いや、俺が寝ていたから起こさずに戦いに行ったのか。
考えていると腹が減ってきた。どうするかな。
今さら行ってももう弁当は残らないだろう。となると…
「帰って飯にするか」
とりあえず先輩を待つことにした。

待つことしばらく、日も暮れた頃。先輩が部室を訪れた。
「藤島、まだいたのか」
意外そうな顔をする先輩。もう帰ったものだと思ってたみたいだな。
「先輩こそ、どうしてここに?」
見ても弁当は持っていないようだ。食べてきたんだろう。
「荷物を取りにきた」
先輩はそう言って置いてあった鞄を持つ。俺も立ち上がる。
「一緒に帰りましょう」
「そうしよう」
二人で部室を出て下校する。
「そういえば先輩」
「何だ?」
「先輩の誕生日って何月ですか?」
「私か?」
先輩が自分の誕生日を言う。
「わかりました」
「お前はいつなんだ?」
「俺ですか?」
俺も自分の誕生日を教える。
「今月か。近いな」
何か考えている先輩。
「あの、もしかしてプレゼントとか考えてます?」
「い、いや。そんなことはない」
「本当ですか?」
「本当だ」
「なーんだ、先輩からプレゼント貰えるかもって期待したんですけど」
ちょっとからかってみる。
「え…」
「でも無理にとは言わないです。もうすぐで、急ですしね」
「ち、違うぞ。そんなつもりは…」
慌ててる先輩も可愛いな。
「冗談ですよ。先輩がプレゼントくれるってことくらい、わかってますから」
「な…からかったのか!」
「はい。どんな反応するかなと思って」
「全く…」
「すみません。プレゼント、楽しみにしてますね」
「ああ」

そして迎えた誕生日。

俺は放課後、部室へ向かう。もう先輩達は来ていた。
「よう藤島。お前、今日誕生日なんだって?」
何故か奢莪も来ていた。
「あ、ああ」
「藤島さん。奢莪さん、ケーキを買ってきてくれたんですよ」
白粉が言う。
「そうだったのか。ありがとう」
「気にするなって。誕生日なんだからさ」
と、奢莪は先輩の側へ行き、何やらゴニョゴニョと話している。
「藤島、誕生日おめでとう」
佐藤からプレゼントを受けとる。
「サンキュー」
開けてみる。中には…
「お前…これ、いいのか?」
「ああ。受け取ってくれ」
中に入っていたのは、セガの名作ソフトだった。俺もセガ好きなのでかなり嬉しかった。余談だが佐藤とはよくセガ談義をする。
「佐藤、マジでありがとう」
「藤島さん、私からもプレゼントです」
白粉からもプレゼントを貰う。
開けてみると中には…
「革製のブックカバー…」
それも、かなり良い値がしそうなものだ。
「いいのか、こんな高そうなの貰っちゃって」
「はい。ほんの気持ちですから」
「ありがとうな」
「さぁ、お待ちかね!魔女からのプレゼントタイムだ!」
やけに楽しそうな奢莪が高らかに言う。
「藤島…私からだ」
先輩からのプレゼント…のはずなのだが、先輩は何も持ってない。何か、先輩の顔が赤いような…?
「…先輩?」
「その、ぷ、プレゼントは…」
一呼吸置く先輩。
「わ、私というのは…ダメ、か?」
「……」
思考がストップする。先輩は今何て言った?プレゼントが…え?先輩で…先輩が…プレゼント?
理解するのに数秒要した。佐藤や白粉も固まっている。
「せ、せせせ先ぱ…!そんな、ダメです!」
「私じゃダメか…。私のことが嫌いか?」
「いやいやそうじゃなくて!先輩自身がプレゼントっていうのはむしろ嬉しいです。けど、もっと自分を大事に…!」
必死に言う。とうとう堪えきれなくなった奢莪が大笑いを始めた。
「…奢莪、お前の仕業か」
「あはは、そうだよ。真に受けてやんの。おもしれー」
「先輩自身がプレゼントっていうのはむしろ嬉しいです。って、真面目なこと言おうとしてんのに下心見え見えじゃん!」
俺の真似をする奢莪。
「くっ…!」
「それで藤島。本当のプレゼントなんだが…」
「あ、はい」
今度こそ先輩からプレゼントを受けとる。
開けてみると…
「クッキー…?」
「その、何だ。適当なものが浮かばなくて麗人に相談したんだ」
「それ、魔女の手作りだよ」
「本当ですか!?」
「ああ。初めてだから上手く出来ているかはわからないが…」
「ありがとうございます!食べてみて良いですか?」
「もちろんだ。が、味の保証は出来ないぞ…」
先輩お手製のクッキーを1つ頬張る。
「…」
「どうだ?」
「…美味しい、です」
笑顔で言う。先輩の表情が明るくなった。
「そ、そうか。良かった」
が、実を言うと凄く塩辛い。先輩はきっと塩と砂糖を間違って入れてしまったのだろう。初心者にはありがちなミス…だと思う。
「また作って欲しいです」
「ああ。また今度な」
今度は間違わないでくださいね。俺は心の中でそう言った。

作品名:ベン・トー~if story~ vol.4 作家名:Dakuto