Telephone call
赤観
番号を確認し、コールを数回。
掛けるのは初めてではないから、家の人への挨拶もそこそこに彼の人の名前を告げる。
合宿所、という慣れない環境に携帯を持つ手が緊張で震える。
クソッ、と小さく漏らし、舌打ちをする。待つのがこんなに長く感じるなんて。
携帯はしっかりと耳に当てつつ観月は辺りを見回した。
こんなところで余裕の無いところを晒すなんてゴメンだと思ったが、周囲に人は居らず辺りは静まり返っていた。
ほっと胸を撫で下ろす。その時、赤澤の声が聞こえた。
『観月?』
「もしもし、赤澤ですか?」
『あぁ。どうしたんだよ、合宿中だろ?』
静けさのせいで、自分の声が廊下に響き渡るのが堪らなく嫌だ。
「えぇ。あなたが寂しがっているんじゃないかと思って電話をして差し上げましたよ」
『・・・相変わらず可愛くない奴だな』
わかっている。しかし、悪態をつかないとどうにかなってしまいそうだ。
「別に結構ですよ。それより、そっちはどうですか?」
『どう・・・も何もなぁ。部に顔出してはいるが、夏が終われば俺たち三年は引退だからな』
「・・・そうでしたね」
いや、聖ルドルフの夏はとっくに終わっているのだ。しかし、彼はそのことを何も言わない。
誰かが悪いなんてことはない。それはみんな分かっている。
だが、彼はもっと僕を責めて良いはずなのだ。
全国から補強組を集め、対戦校のデータを取り、卑怯ともとられる作戦を指示し、それなのに勝てなかった僕を。
・・・結局のところ、青学・氷帝戦で白星を挙げられたのは彼ら「はえぬき組」のダブルスだけだった。
何が「補強組」だ。このために集められたのに。
それでも謝ったりするのは何か違うとわかっているから。やっぱりグチグチと口煩くいつもの文句を口にするだけだった。
「・・・ですが貴方、進級試験は大丈夫なんですか?貴方は成績が良い方には到底思えないのですが。後輩指導は結構なことですが、まず自分のことがしっかり出来てから・・・」
『わかったわかった!そっちこそどうなんだよ、合宿は』
「僕らは順調ですよ。裕太くんは僕と同じチームになりましたし、木更津も双子のお兄さんと同じチームみたいですから、上手くやるでしょう」
『そうか』
「これはウチにとって良いチャンスです。なんとしてもルドルフから選抜メンバーを出さなければ・・・!」
『ま、まぁ、あんまり無理すんじゃねぇぞ』
赤澤の声が優しい。
電話とは不思議だ。面と向かって話すのとはまた違った気分になる。
「言われなくても。それじゃ赤澤、今日はこれで」
『・・・?用事があった訳じゃないのか』
「いえ別に。ただ、」
だから、少し本音を話してしまうのはそのせいなんだ。
「ただ・・・電話したくなっただけですよ」
作品名:Telephone call 作家名:まんじゅう