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雨風食堂 Episode2

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 山本自身は、おそらく言葉のままの意味しか含んだつもりはなかっただろう。だが、ディーノはそれを聞いて、心の中を見透かされたような気がして、ハッとなった。
 食べさせてやりたいものも、見せてやりたいものもたくさんある。だがそれは、当たり前のように、ツナを連れていくことを前提に考えていたものばかりだった。決して山本のことを蔑ろにしたつもりはない。けれど、例えそうなのだとしても、完全に否定してしまうこともできそうになかった。
 山本にこの旅行を楽しんでもらおうという気持ちは本当だ。しかし、ツナがいないことを物足りなく、さびしく思う気持ちは、本当は山本ではなく、自分の中にこそあったのではないだろうか。
――――きっと、こいつはそこまで考えちゃいないだろうけど。
 だがどんな言い訳を用意したところで、自分は山本にひどいことをしたのだという事実に変わりはない、とディーノは思った。そして自分にはそれを詫びることもできないのだと、同時に悟った。
「また、機会はいくらでもあるさ。な?」
 だから、ずるいとわかっていながら、ディーノは山本の肩を抱くようにして腕を回し、やさしく諭して聞かせた。
 ディーノにとって、盟友であるボンゴレの次期ボスであり、同じ師を持つ綱吉の存在は、弟のようだと言う意味においては、決して他の誰かと並び立つものではない。有り体に言ってしまうなら、最初から比べるべくもないのだ。
 だが、それがもし、弟という言葉の意味の外においてであるのなら。
――――それが何なのかなんて、俺にはわかんねぇけど。
 山本が投げて寄こした、もっとも単純で分類不可能なあの感情が、確かに自分の中にもある。それを認めないわけにはいかないようだ、とぼんやり思い、つい苦笑がこぼれた。単純で、簡単で、それゆえに説明が回りくどくなってしまうとは、何とも逆説的だ。
 自分は山本に比べて少しばかり多い年齢と経験ゆえのずるさを持っていて、だからこんなとき、彼のように何の衒いもなく好意を伝えることができない。大人なんて、まったくつまらないものだ。
「なぁ、山本」
 肩を抱いたままの恰好で、ディーノは耳打ちするように山本に顔を寄せる。そして、不思議そうに黒い双眸をこちらへ向ける山本に、極上の笑みを浮かべて見せた。
「――――お前は、本当にいい男だよ」
 無言のまま、山本の眼がゆっくりと驚きに瞠られた。
「ツナの側にいてくれるのが、お前で良かった」
 ディーノの最大級の賛辞に、ひとつ息を吸い込んだあと、山本は鼻の頭に皺を寄せるようにして、幼い顔でくしゃりと笑った。
作品名:雨風食堂 Episode2 作家名:あらた