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雨風食堂 Episode2

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 だから、問い返すディーノの表情も自ずとほころび、声音も穏やかになる。山本は人懐こい笑みを満面に浮かべてディーノを見上げた。
「すんません、急に笑ったりして。ただ何か……、今、ものすごくディーノさんのことが好きだなぁ、って思って、そしたら急に嬉しくなったっつーか、すげえ楽しくなってきたっつーか。………あぁ、何だろ、口で説明するのって難しいな」
 上手く言葉にできないもどかしさに、山本は少しはにかむようにして目を伏せた。だが、説明するのは潔くあきらめたらしく、すぐにパッと顔を上げて、こう言った。
「うーん、やっぱ駄目だ! 獄寺とかによく言われるんですけど、俺ってどうも頭使って誰かに説明したりするのが苦手で」
「あ、いや……、それは別に構わねぇけど」
 わずかに言い淀んだディーノに、山本が首を傾げる。
「ディーノさん?」
「………いや、何でもない。じゃ、この部屋で構わないんだったら、荷物置いて着替えろよ。色々観光するのはひとまず明日からってことで、今夜は屋敷で晩餐の支度をさせているから。できたらまた呼びに来る。長旅で疲れただろうし、それまでしばらく休んでな」
 にっこりといつものように笑顔を向ければ、山本は深く追求してくることはなく、同じように笑顔でうなずいた。
 山本を部屋に残して、一旦自分も部屋に戻ったディーノは、上着を脱いでソファに放り投げると、倒れこむようにそのままベッドの上にダイブした。きれいにベッドメイクされたシーツの上にこうやって飛び込むのが、ディーノが我が家に帰ってきたときのお決まりだった。
――――あー、やっぱ落ち着くなー…。
 日本を離れるときはいつも寂しいけれど、こうして慣れ親しんだ自分の屋敷に戻ってくれば、やはりここが自分の居場所なのだと、しみじみと実感する。ごろりと仰向けに転がり、ベッドの天蓋を見上げながら、ディーノはぼんやりと先ほどの山本との遣り取りを思い返した。
――――あんなやつは、初めてだ。
 男女問わず、好意を寄せられることに慣れている方だという自覚はある。もちろん、その好意の種類は時と場合によって様々だが、それでも、先刻の山本のように開けっぴろげなものは初めてだった。言葉にも表情にも裏表がない。ためらいも恥じらいもない。とっさにどう受け止めたらいいのかわからず、不覚にも動揺してしまった自分を思い出し、ディーノは苦笑いを浮かべた。
 例えば綱吉が自分に向ける好意は、尊敬や憧れの類だ。部下たちの前でないと何かとドジをやらかしてしまう情けない部分だって見ているのに、それでも頼りにしてくれるのが嬉しくて、つい空回りして迷惑をかけてしまうこともある。つまりはそれだけ、綱吉はディーノにとってかわいい存在だということだ。
 だが、あのとき山本が口にした好意は、どうにも分類のしにくいものだった。そもそも、分類することのできるようなものではなかった、という方が正しい気もする。誰かが誰かを好ましいと思う気持ちの、もっともプリミティブな部分を、そのまま掌にのせて差し出されたような感覚だった。
――――しかし、それをああも無意識でやられちゃたまんねぇな。
 相手が寄せてくる好意の種類がわかれば、こちらもどう接するのか決めることができる。だが、山本のように無造作に投げられた好意は、果たしてどう受け止めて返したものか、判断に困る。
 決して、嫌なわけではない。むしろ、先ほどから一人でそわそわとこんなことを考えてしまっているくらいだから、自覚はないけれど、かなり嬉しいのだと思う。ただ、ひどく戸惑っているのも事実だ。
 今回の山本の滞在については本当に成り行きで決まったことだったが、これまで見てわかったつもりになっていた山本という存在が変わるような予感だけは、はっきりと抱いていた。




 その日の晩餐は、料理長が日本からの客人をもてなすために腕によりをかけるのだと言っていただけあって、大変豪華なものだった。海の幸をふんだんに盛り込んだ賑やかな料理の数々に、ディーノや山本だけでなく、お相伴にあずかった部下の面々も、大いに盛り上がった。
 最初の方こそ未成年の手前と自重していたはずなのに、結局最後はワインを樽で空けるような酒宴となってしまい、自分の部下ながら、どいつもまるでガキのようだとディーノは苦笑した。酔っ払いどもは上機嫌で当たり前のように山本にもワインをすすめたが、さすがにそれだけは必死になって食い止めた。
「悪いな、ウチの連中は揃って祭好きで、ああなると止まらねぇんだよ。酔っぱらいばっかりで、もてなすどころじゃなくなっちまったな。すまん」
 宴会も終わって、山本を部屋まで送り届けたついでに、そのまま少し話でもするかと、ディーノはベッドのふちに腰かけた。そうしてまずは部下たちの醜態を謝ると、山本はベッドの真ん中で胡坐をかきながら、けらけらと笑った。
「全然平気だってば! 俺も祭好きだし、上品なレストランみたいな雰囲気より、あっちの方が気楽で落ち着くし、むしろ助かったーって感じ」
「そっか、楽しんでもらえたならよかったよ。この前は皆でお前の家の寿司をたくさん御馳走になったからな。いつか絶対ウチの美味いものも食わせてやろうって思ってたんだ。見せてやりたいものだってたくさん考えてるんだぜ。そうだ、明日からだけど、何か他に食いたいものとか、行きたいとことか、リクエストはあるか? せっかく夏休みを使って一週間近くいられるんだ。やりたいことは全部やろーぜ!」
 中学生には、一般的に七月下旬から八月末までが夏季休暇ということになっているそうだ。普段は学校の授業と部活で日々が暮れている山本のことを思えば、ちょっとくらいの贅沢や無理は通してしまっても構わない気がする。
 あれこれと計画を練るのが楽しくて、つい没頭していたディーノだったが、不意に小声でもれた山本の呟きに、思わず顔を上げた。
「何だかさみしいなぁ……」
 それは、どこか彼らしからぬ複雑な微笑みだった。
「え?」
「――――あ」
 ディーノに問い返されて初めて、山本も自分の呟きが声になって出ていたことに気づいたようだった。あからさまに、しまった、という表情になった後、今度はどう言い訳をしようかと考え込むような難しい顔になった。だがそれも、上手い言い訳が見つからないと観念したらしく、大して間をおかずにバツの悪そうな苦笑いに変わる。これではまるで百面相だな、とディーノは堪らず笑ってしまった。
「何だ、山本。今、さみしいって言ったのか?」
「………ごめん、ディーノさん。折角俺のために色々考えてくれてるのに、変なこと言って」
「別に怒っちゃいねーけど、何が何だかわかんねぇから、謝る前に説明してくれよ」
 すると山本は、うーん、と小さく唸ったあと、照れ臭そうに頬を指でかきながら、素直に白状した。
「ディーノさんが、アレ食べさせたいとかコレ見せたいとか、そうやって色々考えてくれてたもの、ツナにも食べさせてやりたかったし、見せてやりたかったなぁ、って思ったら、何か急にさみしくなっちまって。獄寺に、今回のイタリア旅行のことは絶対にツナには言うなって約束させられたから内緒で来たけど、やっぱ一緒の方がよかったなぁ、って」
作品名:雨風食堂 Episode2 作家名:あらた