Meet again…?
書斎に戻った時、ワトソンはとうとう自分の頭がおかしくなってしまったのではないのかと疑わずにはいられなかった。
何故なら今、自分の目の前には、死んだ筈の友人がおかしなタイツ姿で、まるで不審者のごとく、さっきまでワトソンがいたタイプ前で立ち止まっているからだ。
「どうして…君がここに…っ」
これは幻覚なのか? いいや、自分はこの全身タイツ姿の男の様にコカインなど吸う訳がない。
だとすれば寝不足か? 実際、仕事の方に根を詰めていたからそれも有り得る。特にここ最近は風邪が流行っているせいで、以前よりも、一気に患者の数が増し、診察する日が増えたのも事実だ。それで、どっと疲れがきたのだろう。きっとそうだ。そうに違いない。
ならば大丈夫だとは思う。思うの…だが…?
「ワ…ワトソン…」
死んだ筈の元相棒(そして、その場にいたグラッドストーンまでも)が目を丸くさせたまま此方をじっと見つめている。更にその表情が段々と歪んでいく。目眩がして……――
遠のいていく意識の中、ワンワンと、愛犬の吠えと、ただひたすらにワトソン、ワトソンと、自分の名を呼ぶ声が混ざり合い、耳に鈍く響いていった。
***
目が覚めた時、ワトソンはベッド上で横になっていた。
半身を起き上がらせ、若干の頭痛を覚えながらも辺りを見渡す。寝室だ。
どうしていつの間にここに…。
ぼんやりと霧がかった記憶を手がかりに順序を辿っていく。
ここにいる前、確か自分は書斎にいて、それから何故かホームズと鉢合わせして…ホームズ? そうだ、自分は一度は死んだ友を目にして驚いたのだ。それからだ。靄が立ち込めたかのように曖昧としてて、覚えていないのは。
と、考えていたまさにその時だった。
「ワトソン! やっと目を覚ましたんだね!」
途端にバカでかい声が耳元で鳴り響く。吃驚して、声のした方へ振り向けばさっきの、タイツ姿のままのホームズが眉を潜め、口をへの字にして、泣きそうなのをやっとやっと堪えてる子供みたいな表情で此方を見ていた。そうして起き抜けのワトソンにいきなり飛びかかる勢いで抱きついてきた。ただでさえ先程から驚きっぱなしのワトソンは更に驚き、思わず声を上げる。
「っ、おい! 起きた早々抱きつくなっ」
「あぁ、ワトソン…急に倒れたから心配したんだよ…どうしたんだ…」
半ば涙声でホームズが呟く。肩に顔面を預けたまま、後頭部を髪の毛ごとくしゃくしゃと少々乱暴に撫で回される。肩口が涙と鼻水で湿って少し気持ちが悪い。
暫くすると気が済んだのか、顔を離し、まだ潤っている目元を拭いつつ、鼻をすすりながら、へらへらとした笑みをワトソンに向けた。
「そうそう、君の奥さんにはちゃんと言ってあるから大丈夫だ。突然夫が失神した事には少々驚いている様子だったがね」
失神した事に驚いたと言うか、その怪しさ満載のタイツ姿に驚いたのではないかとワトソンは考えたが敢えて口にはしなかった。
と、ふと、ある単語が引っ掛かる。
失神? となると…自分は気絶していたのか? まぁ、そうでなければ今、ここにはいないだろうが…。そして同時にワトソンはハッと忘れかけていた事を思い出した。
「どうして…君がここに…?」
えっ? っとホームズが間の抜けた表情で聞き返す。そんな彼のしらばっくれた様な態度に苛立ち、ワトソンはホームズの肩をがっしりと掴みながら問い詰める。
「惚けるなっ、どうしてっ…だって君は…死んだんじゃなかったのか…!?」
滝に落ちた筈のホームズが、何故今、こうして何事もなかったかの様に生きているのか。そもそもワトソンが気を失った原因はそこにあるのだ。
するとホームズは決まり悪そうに頭をボリボリと掻きながら言葉を濁した。
「…まぁ、これには色々と訳があるんだが…話すと長くなるぞ?」
何故なら今、自分の目の前には、死んだ筈の友人がおかしなタイツ姿で、まるで不審者のごとく、さっきまでワトソンがいたタイプ前で立ち止まっているからだ。
「どうして…君がここに…っ」
これは幻覚なのか? いいや、自分はこの全身タイツ姿の男の様にコカインなど吸う訳がない。
だとすれば寝不足か? 実際、仕事の方に根を詰めていたからそれも有り得る。特にここ最近は風邪が流行っているせいで、以前よりも、一気に患者の数が増し、診察する日が増えたのも事実だ。それで、どっと疲れがきたのだろう。きっとそうだ。そうに違いない。
ならば大丈夫だとは思う。思うの…だが…?
「ワ…ワトソン…」
死んだ筈の元相棒(そして、その場にいたグラッドストーンまでも)が目を丸くさせたまま此方をじっと見つめている。更にその表情が段々と歪んでいく。目眩がして……――
遠のいていく意識の中、ワンワンと、愛犬の吠えと、ただひたすらにワトソン、ワトソンと、自分の名を呼ぶ声が混ざり合い、耳に鈍く響いていった。
***
目が覚めた時、ワトソンはベッド上で横になっていた。
半身を起き上がらせ、若干の頭痛を覚えながらも辺りを見渡す。寝室だ。
どうしていつの間にここに…。
ぼんやりと霧がかった記憶を手がかりに順序を辿っていく。
ここにいる前、確か自分は書斎にいて、それから何故かホームズと鉢合わせして…ホームズ? そうだ、自分は一度は死んだ友を目にして驚いたのだ。それからだ。靄が立ち込めたかのように曖昧としてて、覚えていないのは。
と、考えていたまさにその時だった。
「ワトソン! やっと目を覚ましたんだね!」
途端にバカでかい声が耳元で鳴り響く。吃驚して、声のした方へ振り向けばさっきの、タイツ姿のままのホームズが眉を潜め、口をへの字にして、泣きそうなのをやっとやっと堪えてる子供みたいな表情で此方を見ていた。そうして起き抜けのワトソンにいきなり飛びかかる勢いで抱きついてきた。ただでさえ先程から驚きっぱなしのワトソンは更に驚き、思わず声を上げる。
「っ、おい! 起きた早々抱きつくなっ」
「あぁ、ワトソン…急に倒れたから心配したんだよ…どうしたんだ…」
半ば涙声でホームズが呟く。肩に顔面を預けたまま、後頭部を髪の毛ごとくしゃくしゃと少々乱暴に撫で回される。肩口が涙と鼻水で湿って少し気持ちが悪い。
暫くすると気が済んだのか、顔を離し、まだ潤っている目元を拭いつつ、鼻をすすりながら、へらへらとした笑みをワトソンに向けた。
「そうそう、君の奥さんにはちゃんと言ってあるから大丈夫だ。突然夫が失神した事には少々驚いている様子だったがね」
失神した事に驚いたと言うか、その怪しさ満載のタイツ姿に驚いたのではないかとワトソンは考えたが敢えて口にはしなかった。
と、ふと、ある単語が引っ掛かる。
失神? となると…自分は気絶していたのか? まぁ、そうでなければ今、ここにはいないだろうが…。そして同時にワトソンはハッと忘れかけていた事を思い出した。
「どうして…君がここに…?」
えっ? っとホームズが間の抜けた表情で聞き返す。そんな彼のしらばっくれた様な態度に苛立ち、ワトソンはホームズの肩をがっしりと掴みながら問い詰める。
「惚けるなっ、どうしてっ…だって君は…死んだんじゃなかったのか…!?」
滝に落ちた筈のホームズが、何故今、こうして何事もなかったかの様に生きているのか。そもそもワトソンが気を失った原因はそこにあるのだ。
するとホームズは決まり悪そうに頭をボリボリと掻きながら言葉を濁した。
「…まぁ、これには色々と訳があるんだが…話すと長くなるぞ?」
作品名:Meet again…? 作家名:なずな