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キングダム・オンライン

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そのままソラは目を開けていられなくなり、目を閉じた。
しばらくして目を開けられるくらいに光が弱まり目を開けてみると、広大な石畳。周囲を囲む街路樹と、瀟洒な中世の街並み。そして正面と奥に、黒光りする巨大な宮殿。


ここはおそらくゲームスタート地点である《はじまりの街》の中央広場だ。
ソラは隣でポカンと口を開けているクラインと顔を見合わせてた。
そして二人で周囲にたくさんひしめく群衆を眺めた。


男性、女性合わせておよそ一万人近くははいるであろうプレイヤーの人々がこの広場におそらく強制的に《転移》(テレポート)させられたのだろう。


しばらく、人々は押し黙り周りを見渡していた。
やがて、声がすこしづつ聞こえてきた。
それは徐々に音量を上がっていき、「どうなってるの?」「GM(ゲームマスター)出て来い」等の声が辺りから聞こえ始めた。


すると、突如上空に赤い表示が現れた。
それには『警告』『システムアナウンス』と書かれていた。
そこで、おそらく大半の人々はようやく運営のアナウンスがあり、そこでログアウトのことで説明があると思われた。


だが、アナウンスから発せられたた言葉耳を疑うような言葉だった。


空を埋め尽くす赤の文字表示のディスプレイから赤い液体のものがどろりと垂れ下がった。
それは粘土を感じさせる動きでゆっくりとしたたり、形を変えた。
出現したのは巨大な真紅のフード付きのローブをまとった巨大な人の姿だった。
顔はよほどフードを深くかぶっているのか、よく見えない。
もしかしたら、顔そのものがないのかもしれない。


現れた直後、低い落ち着いた男の声が聞こえ始めた。


『プレイヤー諸君、私の世界へようこそ。』


『私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ。』


「えっ……」


茅場晶彦!?
ソラはその名前を知っていた。知らないわけがない。
ソラが憧れる科学者なのだから。
ソラが学校で勉強する為の原動力といってもいい。


だが、彼はメディアへの露出を極力避けていた。
もちろんGMの役回りなどするはずもないと思っていた。
その彼が一体なぜこんな真似を?


ソラはいろいろな思考を巡らせて、彼がなぜこんなことを始めたのか理解しようとしたが、そんなことをあざ笑うかのように彼は言葉続けた。


『プレイヤー諸君は、既にメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気づいていると思う。しかし、これはゲームの不具合ではない。繰り返す。これは不具合ではなく、《ソードアート・オンライン》本来の仕様である。』


「し……、仕様だと?」


クラインは掠れた声でつぶやいた。



『諸君は今後、この城《アインクラッド》の最上層である100層まで極めるまでゲームから自発的にログアウトすることは出来ない。』


声はなお続く。


『また、外部の人間の手による、ナーブギアの提出あるいは解除もあり得ない。もしそれが試みられた場合、ナーブギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる。』


ソラとクラインは再び顔を見合わせた。
脳そのものが、言葉の意味を理解しようと拒絶してかのようだった。
しかし、彼の言葉はあまりに簡素なもので、一気に身体中にそれが響き渡った。
脳を壊す。つまり殺すということだ。

『諸君にとってこの《ソードアート・オンライン》はもはやただのゲームではない。今後ゲームにおいてあらゆる蘇生手段は機能しない。よって、ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、同時に現実での諸君の脳はナーブギアによって破壊される。』


『このゲームからログアウトする方法はただ一つ…この《アインクラッド》の第百層をクリアすれば、諸君ら全員のログアウトができる。』


ふざけている。
こんなことをしていったいなにがあるのだ?
ソラはもう茅場の考えについていけなかった。
それはクラインも同じ気持ちだったらしい。


『それでは、最後に、諸君この世界が唯一の現実だという証拠にアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれ給え。』


それを聞いてプレイヤーの全てがメニューを開いて確認していた。
そこには《手鏡》があった。
なぜこんなものを、と思いながら、鏡をとりだして顔をのぞきこんだ。



すると、突然アバターから白い光が包んだ。
数秒で光は消えて、元の風景に戻った。
そう思っていたが、目の前にいた見慣れたクラインの姿はいなかった。


装備は変わっていなかったが、顔だけは似ても似つかぬものへと変貌していている。
ぎょろりとした金壷眼に、長い鷲鼻。
そして、ほおと顎には、無精ひげがういている。


「お前……誰?」


「おい……誰だよおめえ。」


ソラは何かふとある予感が働き、もう一度手鏡を覗いてみた。
すると、数秒前までの《ソラ》の顔であった勇者然としていた逞しいものはなかった。
そこには現実世界での顔。
普段から年相応にみられない少し幼い感じがする見慣れた顔だった。


「お前もしかしてクライン!?」「おめぇがソラか?」


そこまで気づいて、改めて周りを見渡すと、そこには先ほどまでのいかにもファンタジーのようなアバターの容姿はなかった。
あるのは、とあるゲームかなんかの会場にいる客を鎧を着せたようなものだった。
恐ろしいことに男女比も変わっている。


この現象はおそらくナーブギアのスキャンによって性格に現実の顔を認識したものだということ。
そして、体格はナーブギアの設定の段階いろいろと触る作業をしていたことが、アバターで現実の自分の身体と似たものをポリゴンで作り出したのだろう。


『諸君は今、なぜ、と思っているだろう。なぜ茅場明彦はこんなことをしたのか?』


そこで初めて、茅場の声に感情がこもったものを感じた。
そんなことにソラは少し違和感を感じた。


『私の目的は今この状況が最終的な目的である。そして、今、全ては達成した。』


『以上で、《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君……健闘を祈る。』


これを最後に真紅のローブ姿が音もなく消えていった。
空のテキストは消え、再び街のBGMが響き始めていた。
そして、一万のプレイヤーはようやくしかるべき反応を見せた。


「ウソだろ!出せよ!」「いやああ!帰して!帰して!!!」


ソラは何もできなかった。
ただ、先ほどまでローブ姿がいた空を眺めていた。
そして、決心した。


俺がクリアする。
クリアして、またあの世界に戻る。
そして、茅場明彦に聞かなければならない。
それまでは絶対に負けない。


ゲームはまだ始まったばかりである。


作品名:キングダム・オンライン 作家名:スバル