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雨風食堂 Episode3

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 課題のプリントを眺めながら、何だか思いがけない展開になっちまったなと、山本は一人、心の中でぼやいていた。
 今日は、先日の小テストで散々な点数を叩き出した落ちこぼれ同士、仲良く補習の課題をするために沢田家を訪れる約束になっていた。だが、部活を終えた山本がたどり着くや否や、それを待ち構えていたかのようなタイミングで、当の本人が出かけてしまったのである。
 玄関でチャイムを鳴らして、開いた扉の向こうから現れた綱吉に、いつものように片手をあげて声をかけたところで、彼の手に傘が二本あることに気がついた。
「あれ? ツナ、もしかして今から出かけるのか?」
「ごめん山本。実は、母さんが傘持たずに買い物に行っちゃってさ。スーパーで往生しちゃってるらしいから、俺、ちょっと迎えに行ってくるよ。近所だし、すぐ戻ってくるから」
 部活の間はどうにかもった天気だったが、学校からこちらへ向かってくる途中で降り始めた雨は、いつの間にかかなり雨脚が強まっていた。
「そっか。じゃあ、俺は上がらせてもらってるな」
「それで、来たばっかりのとこ申し訳ないんだけど、留守番頼んでもいいかな? この雨で、チビたちもみんな家の中にいるんだ。あいつら、目を離したら何やらかすかわかんないし、心配だから……」
「ああ、そんなことか。大丈夫だぜ」
「部活終わって疲れてるとこ、ほんとごめんな、山本」
「いーっていーって。ホラ、早くおばさん迎えに行ってやれよ。俺はチビたちと留守番してっからさ。な!」
 山本が笑って請け合うと、綱吉もほっとしたように笑って、すぐ戻るから、と言い残して雨の中に駆けて行った。
 それを見送って二階の綱吉の部屋にあがってから今に至るまで、およそ十五分が経過している。そろそろ綱吉も奈々を迎えに行ったスーパーには着いている頃だろう。
 綱吉の部屋は、山本が来るということで見苦しくない程度には片付けられていたはずだが、見渡す限り、残念ながらその痕跡は見つけられなかった。山本が部屋に入ったときには、既にランボとイーピンの喧嘩が始まっていて、手に負えない状況となっていた。
 綱吉がいれば、いい加減にしろよと仲裁に入ったのだろうが、山本の目には、喧嘩というよりもじゃれあっているようにしか見えない。特に物騒なものを持ち出す気配もないので、一応気は配りつつも、山本はそのままやりたいようにやらせることにした。
「ねぇねぇ、タケシ兄。さっきから何を見てるの?」
「んぁ? これか? これは補習の課題。これを明後日までにやって先生に出さなきゃなんねーんだよ」
 プリントの端を持ってぺらぺらと振って見せると、フゥ太は背中からよじ登るようにして、山本の手元を覗き込んできた。
「へ〜。そっか、じゃあ、今日はこれをツナ兄と一緒にやるために来たんだね。確かホシュウって、テストで悪い点数取ったときとかにやるものなんでしょ? ツナ兄はいっつもそれでママンに怒られてるよ」
「あはは……。だろうなぁ」
 自分も同じ穴の狢なので、何のフォローもできず、山本は苦笑いを浮かべた。野球命の山本にとっては、学校に行くのは部活をするのと友人たちに会うためであって、勉強は完全に二の次だ。勉強が嫌いなわけではないのだが、多分、じっと座って何かをするというのが基本的に性に合わないのだろう。ついつい後回しにしてしまい、結果、こうして課題を出される羽目になるのだ。
――――いつも思うけど、これって効率悪いよな。
 補習に参加しなければならないことで、結果的に野球に費やせる時間が減るのでは本末転倒だ。だが、そうとわかっていても、長い間の習慣は早々治らない。ましてや今は、綱吉という補習仲間ができてしまったおかげで、これもこれで案外悪くないかもしれない、などと思ってしまうのだからどうしようもない。
 課題のプリントも、綱吉を待っている間に少しでも進めておこうかと先ほどから眺めてみているのだが、まるで集中できない。飽きずに喧嘩を続けるチビたちが騒々しいから、という理由もあるのかもしれないが、それよりも、一人きりだということが一番の原因のような気がした。
 首にしがみつくようにして先ほどから離れないフゥ太に、山本は少しだけ首をひねって、何やら眠そうな少年の顔を覗き込んだ。
「どうした、フゥ太。さっきからべったりひっついて」
「だって、こうしてると落ち着くんだもん。……タケシ兄、じゃま? 重い?」
 子犬のように潤んだ瞳でこちらを見るフゥ太に、山本はにっこりと笑って、その頭をやさしく撫でた。
「邪魔じゃねぇよ。でも、調子が悪いんだったら、普通に横になった方がいいんじゃねーの? ホラ、確かお前、雨の日って具合が悪くなるんじゃなかったか?」
「………」
 急に黙り込んでしまったのは、どうやら図星だったということらしい。それでも中々離れずにぐずるフゥ太を、山本はもう一度あやすようにやさしく撫でてやった。そして、綱吉の机の上をしっちゃかめっちゃかにしながら乱闘を続けるランボとイーピンに向かって、声をかける。
「なぁ、二人とも。フゥ太がちょっと具合が悪いんで、静かにしてやってくんねーか? ちゃんと大人しくしていられたら、あとでイイものやるぜ」
 山本の呼びかけを聞いたチビ二人は、まるでピンと耳を立てて犬が振り返るときのように、ぴたりと喧嘩をやめてこちらを見た。そして散々散らかした机の上からぴょんと跳び下りると、綱吉のベッドに寝かせたフゥ太の枕もとにやってきて、覗き込んだ。
「フゥ太、病気なの?」
 くりっとした丸い瞳で、ランボがこちらを見上げて問う。山本はもじゃもじゃの頭にポンと手を置いて、二カッと笑って見せた。
「大丈夫。雨が降ってるせいで、だるいだけだから。こうして大人しく横になってればすぐによくなるさ。だから、フゥ太が楽になるまで、大人しく遊んで待っていられるよな?」
 すると、イーピンがかん高い声で何かを言った。言葉は理解できなかったけれど、大雑把な意味は感覚的に理解できた。多分、もちろん自分は大人しく遊んでいられる、というようなことを言ったのだと思われる。山本はイーピンにも同じように笑顔を向けて、おさげの頭をよしよしと撫でた。
「えらいぜイーピン! いいこには特別にご褒美があるぞ」
「ランボさんもいいこにできるもんね! ご褒美!」
 ご褒美が欲しいというよりは、イーピンに張り合っているらしいランボに、山本は声を立てて笑いながら、近くに放ってあった自分のバッグの中をごそごそと漁った。今日はちょうど、家庭科の調理実習で作ったからと別のクラスの女子からもらったマドレーヌを持っていたのだ。
 特別に甘いものが好きなわけではないので、たくさんもらったところで、どのみち一人では食べ切れない。今日はちょうど沢田家に来ることになっていたので、あとで綱吉が戻ってきたら皆で分けようかと思っていたのだ。
――――フゥ太の分だけは残しておいてやるか。
作品名:雨風食堂 Episode3 作家名:あらた