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雨風食堂 Episode4

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 結局ありきたりな言葉しか出てこなかったけれど、京子は問われて少し複雑な笑みを浮かべながらも、答える声によどみはなかった。
「何でもないよ。………私たちは一緒には行けないけど、がんばってね」
 その言葉にはどこにも皮肉などなかったけれど、かすかに羨む気持ちが潜んでいることに、山本は直感的に気付いた。
 決戦の日は近い。彼女たちも、それが重要な日なのだということは知っているようだが、具体的にどんな作戦が行われるのかは、まるで知らされていない。それどころか、今自分たちが身を置くこの世界のことさえ、ほとんどわからないままでいるのだ。だが、彼女たちはまっすぐにツナや仲間たちを信じて、サポートに徹している。
――――俺にはきっと耐えられない。
 自分の運命を誰かにゆだねて待つことしかできないなんて、そんなのは絶対に無理だと思う。肝心なことは何も知らされず、ただ守られて祈ることしかできないなんて、どれだけ不安だろうか。山本には想像もつかない。
 自分には剣がある。戦うための力がある。ツナたちと一緒に走っていける足がある。そのことを、山本は初めて本当の意味で感謝した。そして同時に、目の前の少女たちが、ただの華奢で非力なだけの存在ではないのだということも改めて理解した。
 押し潰されそうなほどの不安を抱えて、それでも笑っていられることの強さ。そのし
なやかさが、どんな剣よりも強い力を持つ可能性を、山本は認めないわけにはいかなかった。
――――だから、せめて。
 この力の及ぶ限りで守りたいのだ。
 綱吉のやさしさも、京子やハルの笑顔も、自分の大切なものを何一つ取りこぼさずに守り切るだけの強さがほしい。十年後の自分にとって、失うばかりだったこの未来を変えるためにも、それが今の自分にできるすべてなのだと信じている。
「ありがとな。すげぇ、元気出た」
 それを聞いた京子とハルは、まるで花が咲きほころぶように、満面に笑みを浮かべた。甘い香りでもしそうだなと埒もないことを思い、今更ながらに、自分が「両手に花」なシチュエーションにいたことに気づいた。
――――あ〜、やっぱこりゃツナには内緒かな。
 そんな風に呑気に心の中で独りごちた山本は、気持ちを入れ直すと、練習フロアへと向かったのだった。
作品名:雨風食堂 Episode4 作家名:あらた