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魔法のトルテ

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「勘違いしていませんか?貴方がギルベルトを好きなのは、私の責任ではありませんよ」

「そ、それは…しかし」
「たったの2日です。精神力の鍛錬と思って我慢なさい。それに、お下品な事を言うようですが媚薬というわけではありませんから恐らく、困った事にはならないでしょう」

どうやら引き留めても無駄らしい。
俺は今2日間、この部屋から一歩も出ないでいる事を決意した。

「…わかった。」
「よろしい。では帰りますよ。」

ローデリヒはさっさと帰ってしまった。
これでこの家では兄さんと二人きりになってしまった。

「ヴェストー」

ビクリと肩が跳ねる。
ダメだダメだ。
風呂上がりの兄さんなど見てしまったら心臓発作を起こすかもしれない。

返事をせずに固まっていると
兄さんは階段を上がってくる。
なんでこうも無防備なんだ!
まさか俺の反応を面白がっているんじゃないだろうな

たまらず、俺は部屋の内側から鍵をかけた。

兄さんは軽くノックしてから
ドアノブに手をかける。

当然、鍵をかけてあるので開ける事はできない。

「お、おいヴェスト!鍵なんてかけて何やってんだ!?飯食おうぜ?」

「ダメだ!2日間は俺に構わないでくれ!」

「おまえ、どれだけ俺が好きなんだよ…おもしれー」
「わ、笑うな!」
「いいじゃねえか。俺だって薬の効果だってわかってるんだしよー。気にしねえから出てこいよ」
「駄目だ!」

兄さんは薬の恐ろしさを軽視し過ぎだ。
今だって、このドアを破壊してしまいたいほどの衝動を必死に抑えているのだ。


「ふーん」

ガチャガチャ
妙な音がする。

途端に、ドアが開いた。

「!!?」
「俺を甘く見んなよ。器用さには自信があるんだぜ…おい、大丈夫か?」

ゴクリと生唾を飲み込む。
その破壊力は絶大だった。

濡れた髪
上気した頬
羽織られただけのシャツからは白い肌が露わになっている。

何もかもいつも通りの見慣れた兄さんの姿が、刃物のような鋭い刺激になって襲いかかってくる。

「あー、これでいいか?」

鍵開けに使ったらしいヘアピンをポケットに突っ込み、シャツの一番上のボタンまでキッチリと留めて熱い熱いと唸っている。
俺の視線に何かを感じたに違いない。
ああ、これが2日も続くというのか!

「とにかく何か食おうぜ。下に確か作りかけのがあったよな?」

まったく隙だらけの背中を俺に向けて歩き出す。
目眩がした。
一応立派な軍人上がりなのだから、こういう状況の時くらい警戒の姿勢を示してくれないとこちらが不安になる。

「兄さん。」
「あ?」

気がつくと後ろから抱きしめていた。

しかし、兄さんは抵抗なくそのままでいる。
薬のせいだと思っているのだろう。
俺はその事が無性に悔しくて、衝動のままに言葉を紡いだ。
せめて言葉にして伝えなくては発狂してしまいそうな恐怖にすら駆られた。

「兄さんが好きだ」
「素直なヴェスト可愛い過ぎるぜー」
「本当だぞ」
「わかってるって」
「そうじゃないんだ」
「は?」

俺は廊下に兄さんを押し倒した。
しまった
そう思ったのは一瞬で、目の前にある兄さんを見る事で感情が理性を殺していく。

俺は怖くなって兄さんにしがみついた。

「だから!ダメだといっただろう!!」
涙声になりながら叫ぶ。
こんな状況だというのに兄さんは悠長に笑っていた。
体に伝わる振動でわかる。

「ホントおもしれえな!手元にあれば毎日混ぜてやりたいくらいだぜー」

考えるだけでゾクゾクする
恐ろしい。

「ダメなんだ。俺は兄さんが本気で好きなんだ。この薬は恋愛感情が無い相手には反応しないと言っていた」

譫言のように言葉が漏れる。
自白剤を打たれたみたいに頭を通さず口だけが動いている。

「だからなんだよ。俺を好きな事の何が悪いんだ?俺はヴェストが本気でそう思ってんなら嬉しいぜ?」
「兄さん…」
「泣くな。しかし2日しか保たねえなんて勿体無いぜー。ナターリヤの奴、もっと真面目に作れよな」
「兄さんは変態だな…」
「その変態を好きなお前に言われたくねえな」

気持ちを素直に伝えた事で、その後いくらか俺は症状が軽減した。

2日目が終わる夜、兄さんがどこからか手に入れた怪しい液体を持っていたのを発見して投げ棄てた事を最後に、この事件は収束に向かった。

自分ですら気付いていなかった兄さんへの気持ちだけを残して。

作品名:魔法のトルテ 作家名:甘党