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【腐向け】インテ新刊確定しました/ロイエド子

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それはロイ・マスタングにとって本当にくだらない、しかし紛う事無くピンチだった。


 余りにも強引に権力を振りかざすだけの電話、断る暇も無い。
 それが立て続けに二本も来れば、若くして国軍大佐という地位につく男でも愚痴りたくもなる。
 気持ちを察してくれたのか、平素であれば銃口と共に文句の一つも投げ付けるであろう副官も小さな溜息と共に親友に愚痴を垂れ続けるロイを黙認し、静かに書類の整理を行っていた。

『で、誰だって?大将と中将?…そりゃ断れねえなぁロイ!』
「しかもダブルブッキングだ…伝える暇さえ無かった…」

 眉間に深く刻まれた皺を見るまでも無く容易に想像して爆笑するヒューズに電話回線を使って消し炭にできる構築式でも考えようかと受話器を持たない左手を握り締めた。

「笑い事じゃないんだ」

 悪い悪いと口にしつつも悪びれる様子はなく、しかし笑いだけはきっちりと止めて一つ咳払いをするヒューズにわざと聞こえるように溜息を零す。

 イシュヴァールの英雄と謳われるロイも、軍人である以上上官には逆らえない。
 それを逆手にとって見合いを捻じ込んで来られる事は今までもしばしばあったのだが、今回はそれが二件重なった。
 見合いという程ではない。『娘が(孫が)イーストシティに行ってみたいというので頼む』という見合いに持ってゆくまでの1ステップに過ぎないものだが、日々多忙を極めるロイにとっては時間と労力と愛想笑いの無駄遣いという認識しかないのだ。
 デートや遊びだけが目的の女性ならば両手指では足りない程いるし、現状で結婚する気など微塵もない。
 困り果てた結果、この親友への電話と相成った訳である。

『で、何か断る方法でもあんのか?』
「レディが二人同時となると…別の面倒もあるだろう」
『揉めそうだよなぁ…』

 間違いない、と頷き再びの嘆息。
 こういう場合に女性としても成熟した、美貌の副官を使うのは後々の処理が面倒なのでどうしても避けたかった。
 なんとかするしかない…と、愚痴るのも疲れたロイは電話を切る為に言葉を繋ごうとし、ヒューズのひらめきに遮られる。

『あーあー!!ロイ、いいアイディアがある!』
「何だ?」
『いや、それはまだ内緒!本人達の了承をまず得ねぇとな!』
「本人達?…誰だと言っている。」
『それはお楽しみって事で!で、いつなんだそのお嬢様方がイースト来んのは』

 的を得ないヒューズの言葉に苛立ちを覚えつつも来月頭から一週間という予定を口頭で伝え、それ以上の追求を諦めて電話を切ったのだった。




 書類の前倒しに次ぐ前倒し。そこからの二週間は真実怒涛の様に過ぎた。
 余りにも有能な副官が、おそらくこれから起るであろう波乱を予想して必要以上に先のものまで片付けさせたのだと予測する。
 件の女性達の相手をしても、急ぎの仕事や通常のものは避けることが出来ないが、そこは将軍の娘なのだから理解してくれなければ困る。
 ハボック辺りに相手をさせればいいかと重苦しく凝り固まった肩を逆手で揉んで、重厚な革張りの椅子に深く背を凭れさせた。

 タイミングを計ったかのように突然鳴り響く電話の音。
どうにも出る気になれず、三回コールを聞き逃す。
机上に肘を付き、中尉が見たらだらしないと言われるポーズのまま受話器を上げて耳に寄せた。

「マスタングだ…」

 取り澄ましたオペレーターの声でヒューズの名を告げられ、そのまま切り替わる。
 そういえば、と親友に何か策を思い付いた二週間前の電話をを思い出し、単純にも少々気分が上昇した。
 しかし内容はまたどうにも要領を得ないもので。

『よぉロイ!ちぃっとばかし忙しくて要件のみですまねーが、なんとか口説き落としてそっちに向かわせたぜ!そろそろ着くんじゃねぇかな?』
「だから誰をだ…」
『そりゃーお楽しみだっつったろ?何、特に妨害とかさせる訳じゃねぇ、ただ…好きなようにやらしてやってくれりゃいい。それだけできっと片が付くと思うぜ』
「何を…」
『おっと悪ぃな、そろそろタイムオーバーだ!そうそう、あいつらはお前の家に寝泊りさせてやってくれ、それも含めて俺の計画だからな!』
「おい、待て!何で私の家なんだ!」

 じゃあな!という声と潔い切断音。呆然と受話器を握り締めたままのロイの耳にはツーツーと無機質な音が響いている。
 錬金術師であるが故に曖昧な事は苦手で、舌打ちをして受話器を乱暴に戻した。
 冗談じゃない、と言い捨ててみても聞き咎める副官はいない。
 真実冗談ではないのだ、自慢ではないがロイの一人暮らしをしている家は無駄に広い。とは言ってもファミリー向け程度だが、誰某かが二人泊まる位は容易いと思う。
 でも問題はそこではない。
 軍務に追われ、帰宅できる日の方が少ない日々。帰ったとしてもすぐにベッドに倒れ込み、そのまま就寝。朝になれば朝食も取らず、半ば拉致のように迎えの部下に軍用車に押し込まれる。
 そんなある意味殺伐とした日々を送るロイに掃除だの洗濯だのという時間は無い。
 いや、ほんの時たまある休日にやろうと思えばできるのだが、そこはそれ、独身貴族でもある国軍大佐は怠惰な時間こそが有意義だと、疲労度が高ければだらだらとベッドで過ごし、余裕があればデートに勤しむのが常なのだ。
 それが例え親友ヒューズの後押しのある人物であったとしても容易に足を踏み込ませる事はできない。
 というより、保身の為にも誰にも中は見せられないが正しい。
 むしろヒューズこそが己のそんな生活を知っている筈だというのに、どうしてこういう展開になったとか理解が追いつかず、ただただいらつくばかりだ。

 それ以外の当たり所が見つからず、白い手袋をした指先で机を三回叩けば、まるでそれが合図のように力一杯扉が蹴り開けられた。

 実質東方司令部の最高司令官であるロイ・マスタングの執務室の扉にそんな無体を働く者などただ一人しかいない。
 タイミングがタイミングだけにうっそりと視線を向ければ、そこには案の定、巨大な鎧を従えた真っ赤なコートの小さな子供が立っていた。

「よーーーっす大佐!超疲れてんだって?ヒューズ中佐から聞いたぜ!顔見て笑いに来てやったっ!」
「ちょっと兄さんっ!すいません大佐、お疲れなのに…」

 身体は小さいがどこまでも態度のでかい兄(通常運行)と、申し訳なさそうにカシャンと音を立て肩を竦めた鎧の弟(勿論これも通常運行)。
 言わずと知れたエルリック兄弟なのだが。
 言葉の端にヒューズから聞いてというキーワードを得て、ロイは呆然と目を見開き。
 おかえりも、お約束の嫌味さえ思考の外に追いやられ、呟く。




「ヒューズが言っていたのは…鋼のとアルフォンス君…?」






「何か大変なんだってな?」

 『にやにや』としか表現できない人の悪い笑みを浮かべて、正面の一人掛けのソファに踏ん反り返る鋼の錬金術師の姿に、ロイは疲労ピークと言わんばかり机に突っ伏した。

「司令部の皆さん、凄いお疲れなんだってヒューズ中佐に伺いました…。」

 心配げに労わるような声で言葉を継いだアルフォンスに顔だけ上げて苦笑して見せる。