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【腐向け】インテ新刊確定しました/ロイエド子

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 どこまで説明したものか、この子供達には全くと言っていいほど無関係で個人的な問題だ。
 司令部、と言うよりはロイを含めた直属の部下達の疲労なのだが、間違いなくその通りだろう。
 常軌を逸した量の書類を裁かねばならないロイが本来すべき上官の娘達を迎え入れる準備を彼らが全てやってくれたのだから。

「そうだね…少々面倒な事があって部下達もてんてこ舞いだったと思うよ…。」

 溜息混じりに零された言葉にエドが表情を曇らせたのを、米神を揉む為に片手で目を覆ったロイは見る事が出来なかった。

 はぁ…と子供らしからぬ盛大な嘆息に、ふと顔を上げると肩を竦めた小さい身体が丁度立ち上がった所で、目の前に差し出された鋼の右掌に何事かと首を傾げると、エドは面倒臭そうに眉間に皺を寄せて言い放つ。

「はやくよこせよ、アンタん家の鍵!」

 その強引な物言いに、そういえばそんな面倒事もあったのだと益々頭痛を感じた。

「あ、じゃあ僕はとりあえず皆さんのお手伝いしてきますね!兄さん、買い物とかは呼んでくれたら一緒に行くから!」

 礼儀正しく、空気を読むのに長けた弟も兄の傍若無人を諌める事なく部屋を早々に出て行ってしまった。
 と、言うことは…やはりヒューズの謀がある程度は兄弟に伝わっているのだろう。
 どこまでの事を知っているのか、彼らは何をするつもりなのか、お互いの意思の疎通が必要だと感じたロイは、重い腰を上げて部屋の隅に設えられているコーヒーをカップに注ぎ、差し出されたまま固まっているエドの右手に乗せてやった。
 慌てて左手で取っ手を掴むと、ちらりとロイを見上げる金色の瞳。
 話があるのを悟ったのか、そのまま再びソファーに腰を下ろした。

「で、何?」

 と見上げてくる金色の瞳には何の思惑も謀さえ見当たらず、ただひたすら子供らしく純粋だ。
 むしろ時折司令部に顔を出しては、報告書の提出などでロイと口舌戦を繰り広げる時の方が、小憎らしくて大人には騙されないと気を張り、よっぽど策士のような顔をしている。

「だから何だっての!俺は皆にランチ作って来たいんだから話があるなら早くしろ!!」

 相も変わらず短気な性格は、ひたすら何かを探るようにじろじろと不躾な視線を送るロイに痺れを切らし、カップを持っていない方の手を振り下ろすように叫ぶ。
 しかしその言葉にきょとんと目を見開き、固まってしまった男が動く気配がないと知ると、大きく溜息を吐いて再度聞く体勢に座り直した。

「え…っと、」

 珍しく覇気も無く困惑まみれの上司の声に、やはり疲れているのかと不安そうな顔をする子供に、ロイは気付かない。

「ランチって、君が作るのか?…いや、それより何で…。」

 困惑が全面に押し出された珍しい声を聞き、ああ、と納得して頷いたエドワードは、何を勘違いしたのか見当違いの言葉と共に益々ロイを困惑させる行動をとった。

「俺なんかが料理できんのかって事?まぁ、大丈夫。母さんが寝たきりの時は俺が作ってたし、それなりに食えると思うぜ?」

 脳裏を過ぎる回想に眉尻を下げたのはほんの一瞬、平素であれば馬鹿にすんのかと食って掛かりそうな場面なのに、エドワードは見たことも無いような優しい笑みを浮かべると、忙しさに身だしなみさえ整える暇がなかったのか、パサついているロイの髪に手を差し伸べ、嫌味もなにもなくただそっと一回撫でた。

「鍵、くれよ。ヒューズ中佐からだいたいアンタん家どんなんか聞いてる。誓って嫌がる事しねーからさ。」

 お互い錬金術師だという事もあって、書斎などには手を付けないと言いたいのだろう。
 しかしロイの家にはエルリック兄弟が旅には持って行けず、既に解析済みの本なども収納してある。
 希少なものが大半だった為に処分するのも憚られた為だ。
 ロイの蔵書にしてもエドワードとは専門からして違うのだから見られて困る程のものはない。
 むしろ、ありとあらゆる場所に本が平積みされていたりするので、書斎と言えるような状況では無いだけな訳で。
 故に、問題はそこではなかった。

「いや、本とかは別に自由に見て貰って構わない…っというか、問題はそこではなくて…。」
「じゃあ家が汚ねーって事?それも聞いてるぜ、中佐から。」

 聞いちゃってるのか…と、頭を垂れれば、また優しく苦笑して撫でられてしまった。

「独身の野郎の部屋なんかそんなもんじゃねえの?いいよ、気にしねーし!…それとも、キッチン使えない程酷いのか?」
「…………酷い………かも?」

 朝インスタントコーヒーを飲むべく湯を沸かす為足を踏み入れたキッチンの惨状を思い起こしつつ、言うのも憚られる思いを噛み殺して呟けば。

「まじでか……。まさかそこまでとは……。」

 と一緒になって青褪める小さな錬金術師に思わず「すまない」と謝罪してしまった。

 よくよく考えれば、自分が生活する分には全く…とは言わないが、ほぼ支障もないので謝罪する謂れも無かったかもしれないのだが、あまりにも真摯なエドワードの表情に言わない訳にいかなかった。

「勝手に掃除とかしてもいいかな…?」

 伺いを立てるように首を傾げて聞いてくる少年の顔色はまだ若干青い。
 そして、そんな一朝一夕で掃除が終わるとは思えない有様なのだから返答に困った。

 真っ直ぐに見詰めてくる金色の双眸が困惑しきりのロイに突き刺されば両手を挙げて降参する以外道はなく。
 完全に流された状態で、ロイはエドワードの小さい掌にポケットから出した自宅の鍵を落とし。

 呆然と見送るロイを尻目に、聞きしに勝る惨状を聞いたエドワードは手伝いを中断させたアルフォンスを連れて軍部を後にした。

 イーストシティ一の伊達男、ロイ・マスタングが使用済みの下着も全て脱ぎ散らかしてあったのを思い出して常軌を逸するほどに慌てふためくのは、それから30分も後の事である。