GUARDIAN
しばらくすると一護に押された車いすに乗ったルキアがやってきた。
その後ろには松葉づえをついた恋次もいた。
「兄様っ!」
「隊長っ!!」
ルキアと恋次は不自由な体で白哉の枕元まで行く。
「お目覚めになられたのですねっ兄様!」
「良かったっスっ!!隊長!」
二人して目に涙を浮かべながら必死に言う。
「ルキア…恋次…」
そんな様子に二人に白哉は名を呼んだ。
「一護さまっ」
名を呼んでくれたのがうれしかったのか、ルキアは一護に聞いていたかという様に、子供が親にうれしいことがあった時に報告するように振り返った。一護は聞いていたと、うんうんと頷いてやる。
ルキアはパアと笑い兄様兄様と声をかける。
恋次は拳でゴシゴシと涙をぬぐっていたが一向に止められずにいる。
「まったく…妹泣かせてんじゃねーよ。この馬鹿白哉。」
「一護さま!いいのです!私のことなどっ」
「よくねーよ、ルキア。全く情けない。」
やれやれと首を振る一護のその様子を見ていた四番隊隊士や恋次は青ざめた。四大貴族でもある朽木隊長に対してとんでもない言い様で、いくら怪我人だからと言って随分と大胆な物言いをする一護に驚いた。
その口ぶりからして親しいのは分かるが、一護の外見は明らかに白哉よりも幼く少女と言っていい位の外見年齢であった。
周囲の人間がハラハラしつつ、そのやり取りを見守っていたが関係が気になって仕方がない。
こういう時、空気が読めない、時には勇者と称号をもらう恋次が口をはさんだ。
「あ、あの~…一護…さんと朽木隊長ってどんな関係なんすか?」
白哉が目覚める前の間にルキアのもとにも何度か顔を出していた一護に面識はあり、その時ルキアにいったいどんな人なのかと聞いたことがあった。その時、ルキアは朽木家にとって大切な方だ!と言っていたが具体的にどんな関係なのかは知らなかった。
そんな恋次の質問に、それまで白哉に小言をくれていた一護は口を閉じ、ちらりと白哉を見た。
「・・・・・・私の後見人だ。」
「っていうより、相談役みたいなもんか?」
一瞬、その場を沈黙が支配した。
「「「「「「ええええええぇぇぇぇぇええぇぇぇぇぇぇぇ?!?!?!?!?」」」」」」
その場にいた事情を知らない者たちから驚愕の声が上がった。
それを卯ノ花は内心楽しくて仕方がないと言うような様子でにこにこにこにこと聞いていた。
「まぁまぁ、皆さん病室ではお静かに」
一応、注意は怠らない。
「いや、でもっ、卯ノ花隊長っ!ええええぇぇ?!」
「あまり騒がれると傷が開いてしまいますよ。阿散井副隊長」
「恋次、騒々しい。」
見苦しいという様に白哉は顔をしかめた。
「そうだぞ!馬鹿恋次!兄様の前だ、控えよ!」
ルキアに怒られ、恋次はシュンとうなだれた。
「はっはっはっ、なんだ、面白いやつだなー」
それを見ていた一護は恋次のことを気に入ったようだった。
「え、でも。後見人ってことは一護さんは朽木隊長よりも年上ってことっすか?」
恐る恐る叱られた犬の様に恋次が聞いてきた。
「私が知る限りでは祖父よりも年上であったと記憶している。」
「ああ、銀嶺ね。てか、俺も正確な年なんて忘れちまったわ。そのころから相談役みたいなことはしてたけどな。」
「私よりも年上ですよ、一護さん。」
「あれ?そうだけ?」
はいと卯ノ花はにこにこ笑う。
「もともと黒崎家は朽木家の分家みたいなもんでな。俺の場合無駄に歳だけは取っちまったから、相談役みたいな立場に名ちまったけどな。」
「なにを仰るんですか、一護さん。護廷の隊長まで務めた方がそのような。」
「え、そうなんすか?!」
「ま、そんなこともあった。」
「しかも零番隊からのお呼びまで掛かったほどの方です。年だけ取ったなどと」
その話は白哉も初めて聞いたのか目を見開いていた。
「一護…。兄は零番隊から声がかりがあったのか…?」
「ん、ま、そんなこともあった。」
一護は大したことはないとあっけらかんと答えた。
「俺が宮仕えとかできるはずねーだろ。誘いがあった時に、後進も育ってきてたしもういいかなーって全部投げて隠居してやった」
はっはっはっ!と笑う姿は実に豪胆であった。
「ま、その時の朽木の当主が早くに亡くなってな。残された後継者は幼く、当主の父親からよろしく頼むと言われていたから隠居したってのもある。ご当主は体が弱くてなー。いつも子供のことを心配していた。」
一護は当時を思い出したのかしんみりとした面持ちになった。
「後見人として、若当主を支えると一緒に教育係も俺の仕事のうちでな。後見人というのは相談役っていうのに変わったが、次代の教育係というのは今でも健在なんだよ。」
にやりと笑って一護は白哉を見下ろした。
「え、ってことは。朽木隊長の教育係もされていたんです、か?」
「ああ。白哉が生まれる前から今現在まで大体のことは知ってるぜ。白哉のちっっっさくて、まだまだやんちゃ盛りだったころの白哉とかな!」
今度話してやろうとニヤニヤしながらいう一護を忌々しそうに白哉がみていう。
「やめよ。」
「ん?」
「そんな無駄話をするために兄は来たのか」
「いいや」
「兄は何をしにきたのだ」
白哉はその答えをわかっているように疑問を口にする。
「お前を助けに来たんだ。」
一護は強い瞳でいう。
「お前が護りたいものを護る為に来たんだ、白哉。」
一瞬にしてその場の空気が変わった。
「お前が護りたいものたちがいるこの尸魂界を俺が護ろう。お前の誇りを俺が護ろう。」
一護はそっと白哉の頬に手を添えた。
「お前が自分で護れない今。その傷が癒え、お前自身で護れるようになるまで俺が護ろう。何一つ失わないように。」
頬を撫でていた手はそのまま頭に移動し優しくなでる。
「それが後見人の俺の役目だ。」
一護は幼子に言う様に優しく言う。
その瞬間、白哉の体から力が抜けた様に見えた。
「まず、一つ。お前の守りたいものである朽木家は無事だ。みな殆んど怪我もしていない。ついでに言うなら黒崎もな。すぐに態勢を立て直せるだろう。黒崎に関してはすぐにこちらに応援を出すように指示をしといた。少しは役に立てるだろう。織姫もすぐにやってくる。」
まぁ、そっちにかかりきりだったからこっちに来るのが遅れちまったんだが…と一護は苦い顔をした。
「山本殿を失った今、おそらく王族特務がやってくるだろう。それもそれに合流しようと思う。心配すんな。朽木家の代理として恥じぬ戦いをしてくるから」
老体に鞭打ってな!っと一護は呵呵と笑う。
「お前は安心して体を癒せ。治ったら、もう一度鍛えなおしてやる」
今度は白哉の髪をぐちゃぐちゃに撫でまわして手を離し、一護は白哉たちを振り返ることなく病室から出て行った。
その背中は華奢な体をしているにも関わらず、とても大きく見えた。
「心配することはありませんよ。」
卯ノ花が心配そうにし病室の出口を見つめるルキア達に声をかけた
「あの方は零番隊のどの方よりも強いですから」
そういい、卯ノ花もその白い隊長羽織を翻し一護の後に続いて行った。