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雨風食堂 Episode9

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「何言ってんだよ、ツナ! 頑張ってるに決まってんじゃん!」
「そ、そっか……。いや、俺、今まで何かを頑張ったことってあんまないから、自分では頑張ってるつもりなんだけど、よくわかんなくて」
 誤魔化すように小声で言ってしまうと、綱吉はどうにも照れ臭くてはにかむように笑った。山本の笑顔に何度も力をもらってきた自分だからこそわかる。笑顔は誰かを励ます勇気となる。そして、自分自身を奮い立たせる覚悟の表れなのだ。
「山本がいてくれてよかったよ。みんなが、俺の仲間でよかった」
 そう言うと、山本はにっこりと微笑んで頷いた。
「俺はお前に関わることで、何ひとつ後悔なんてしねぇって決めてんだ。だからさ、ツナ。その気持ち、絶対に忘れないでくれよ」
 言葉の最後は、本日最後の授業の予鈴に重なった。慌ただしく席に戻る生徒たちに、山本も席から立ち上がった。そして自分の席に座っている綱吉をすぐ側で見下ろすと、彼特有の屈託のない笑みを浮かべて、他の者には聞こえないような声で、そっとささやいた。
「どんなことでも、お前のやりたいように思い切りやれ。………俺は、何があってもお前の味方だから」
 驚いて目を瞠る綱吉に、山本は一瞬だけ初めて見せる笑みをひらめかせたあと、ポン、と綱吉の肩を叩いて自分の席へと戻って行った。
 本鈴が鳴り、教師が黒板の前に立つ。綱吉も慌てて机の中から教科書を引っ張り出そうとして、先ほどから握りしめたままだったお守りの存在を思い出した。
 ゆっくりと指を開くと、そこには変わらず可愛らしい手作りのお守りがあって、綱吉は改めて、自分の握りしめるその小さな幸福をいとしいと思った。
 勝手にこぼれ出しそうな涙を誰にもばれない内に手の甲でぐいっと拭い、お守りを制服のポケットにしまった。
――――ありがとう。
 すべてが終わったらきっとこの言葉を伝えようと、綱吉は強く誓った。
作品名:雨風食堂 Episode9 作家名:あらた