二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

【腐】君を探す旅・2【西ロマ】

INDEX|8ページ/8ページ|

前のページ
 

***


 何事もなくのんびりと過ごす日々は続く。井戸から水を汲んで来たロマーノが見つけたのは、やる気に満ちたアントーニョの背中だった。先程城から使者が来ていた筈だが、何かあったのだろうか。
「今度こそ追い出すで!」
 レコンキスタやーと盛り上がる姿から察するに、どうやら以前の場所に再出撃命令が出たようだ。前回酷くやられているので、何だか心配になる。
「出撃か?」
「せやで! ……あんな、ロヴィにお願いがあるんよ」
 桶を置いたロマーノに、アントーニョが走りより抱きついてくる。勢い良く返事をした後、少し戸惑ったように手紙を差し出した。
 紙に書かれているスペイン語をつらつらと読む。手紙の主はこの戦いのトップを任される男のようで、アントーニョの戦線参加と……何故かロヴィーノも隊に参列させろとの命が書かれていた。
「おいコラ、どういうことだよカッツオ」
 紙を手にしたままぺちりとアントーニョの頭を叩き、意味が分からんと疑問を零す。
 なんで一般市民が参戦せねばならないのか。そもそもイタリア人だぞと言いたいが、そういえば教会の騎士団も協力に来ているのでそれはまぁいいのかもしれない。
 ……いやいや、まったく良くない。
 一瞬納得しかけた頭を必死に引き戻す。自分は胸を張って戦いには向かないと言いきれる。それはここに戻る際、護衛してくれていた兵達にも苦笑される程であった。
「ロヴィ、凄いお医者様やって噂になっとるで」
「はあ!?」
 何がどうなってそうなった。
 顎が外れそうな程衝撃を受けるロマーノに、アントーニョは「町の皆を助けてたから」と話を続ける。どうやらその噂と腹を縫合した隊長の話が大げさに上に伝わったらしい。
 町の人を助けたというのは、下痢の脱水症状を指摘して水飲ませたことか。それともお手製の軟膏傷薬をあげたことか、口内炎にいい食べ物を教えたことか、頭しらみの駆除方法を教えたことか。
 製薬会社の薬は無いから、お酢や果物などを使った民間治療レベルのことしかやっていない。食事療法がメインなので、医者というより料理人として呼ばれる方がしっくりきた。
 更に言えば、ここに居られるリミットもある。イギリスから渡された薔薇の色は真紅からイタリアン・ローズに変化していた。残された日は、どう見積もっても二ヶ月あるかどうかだろう。
「……手助けしてやりたいとは思うけど。俺戦い嫌いだし、それ以前に、な」
 今までウッカリ忘れていた設定を思い出し、申し訳ないという顔をする。その言葉にあっという顔をすると、アントーニョは顔を下に向け、何も言わずぎゅっとロマーノの服を掴んだ。
(あー、参ったなぁ)
 こんな捨てられまいと縋る子供みたいな仕草をされて、心が揺れない筈が無いだろう。それに、よく考えればここに一人残っていても何もすることが無いのだ。アントーニョと共に行って件の『イタリア』を探す方がいい。
「あー、……そうだな。医者としては行けない。俺はきちんと医療を学んでいる訳じゃないからな。だから……健康を守る料理人としてならいいぜ」
 悪いが軍医は別に探してくれ。そう妥協すると、子供の顔がゆっくりと上がった。まだふくよかさの残る頬を両手で挟み、「いいな?」と念を押す。アントーニョは数度瞬くと、小さく、だがしっかりと頷いて返した。
 アントーニョが城へ行っている間に荷物を作る。向こうへ行ったらもう戻ってこられないと思うので、未来から持ってきた荷物は全部鞄に詰めることにした。
 といっても、そこまで多くない。後は念のため作った傷薬と薬草、清潔な布……。戦場で治療に使えそうなものを詰めておいた。
 サイドテーブルの引き出しを開け、陶器の薔薇も鞄に入れる。なんだか薔薇の色は昨日よりも薄れている気がし、ロマーノは予想よりも時間がないのかもしれないと思い直した。
「はぁ……」
 荷物を作り終え、ため息をつきながらベッドに座る。ここに飛ばされて結構経ったが、未だロマーノはスペインへの想いを吹っ切ることが出来ない。むしろアントーニョと暮らすことで自分の知らないスペインの姿を知ってしまい、更に心を寄せてしまう結果になっていた。
 もう残る機会は初恋という『イタリア』が、完璧な人格であることだけ。その女性と比較し打ちのめされれば、何とかなるかもしれない。 だが、同じ『イタリア』であるせいか、たぶん完璧とは違うんだろうなという感じは薄々する。弟やセボルガ、大元の祖父もツッコミ所満載だ。例の相手がイタリア娘の性格であればいいなと祈りつつ、ロマーノは同時に諦めてもいた。
 たぶん、ずっとこの想いは引きずる。
 元々何百年も持っていたものだ。それは既に自身の一部になっており、引き離すことなんて出来ないのだろう。
 ……この旅はそれを知らしめるものだったのかもしれない。