【腐】君を探す旅・3(完)【西ロマ】
今まで努力してきて、振り向かせることは出来なかった。そして離れることも出来ない。
行く道も帰る道も無く、ただ一人立ちつくす。
(視野が広がればいいのにな)
ずっとスペインの背中を見つめてきた。そればかりを見続けていたせいで、もう首が固定されている。嫌になってもよそ見出来ない状況は、一体誰を責めればいいのだろう。
胸がじわじわと痛む。親子のように、穏やかに愛せれば良かった。恋愛小説で読んだ暖かい気持ちは自分の中には無く、ただ彼が欲しいという嵐しか無い。
内に秘めるだけの嵐はロマーノの胸を荒らし尽くし、ひび割れた心からついにスペインへと爪を伸ばした。
傷つけたい訳じゃなかった。悲しませたい訳でも。
彼が今までの関係が永遠に続くことを望んでいるのを知っていたのに。
(告白しなきゃよかった)
我慢するべきだったのだ。スペインのことを思えば。
相変わらず自分は親分を悲しませることしか出来ないと、後悔で湿った息を吐く。
結局あの告白はわずかばかり自分の心をスッキリさせるだけで、更なる苦しみをお互いの胸に植え付けた。プラスマイナスゼロどころかマイナス一直線。後悔しか浮かばない。
でも、我慢出来なかった。これ以上の苦痛に耐えられなかった。渦巻く愛情は汚泥のように胸に溜まり、憎しみにも似た狂気を孕んでいく。そんな感情を抱え人であれば数度一生を終える時間が過ぎ、このままでは危険だという自己防衛が働いたのかもしれない。
……思考は水のように流れ続ける。
だが流れる水はぐるぐると循環しており、回る度に思考は沈んでいく。浄水されない水はいつしか濁り、ロマーノの頭にもやをかけ始めた。
後悔。自責の念。あらゆる重圧がのしかかる。
ここで「何がなんでもスペインを振り向かせてやる!」とならない自分の自信の無さも、臆病さにも吐き気がした。
(桃でパイでも作ろう……)
そして、いつもの現実逃避。
ふらりと立ち上がり、台所へ移動する。粉を用意し料理する間は何も考えなくて済む。そういった意味でも、ロマーノは料理が好きだった。悩みすぎて自らを縛ってしまう状況から、一時的にでも離れられるのはありがたい。
脆弱な精神を守る為に作られたパイを釜に入れる。じんわりと焼けていく姿を見ていると、子供の頃の記憶が蘇った。こうして焼けていく様子を、ベルギーやスペインに笑われながらも見ていた子供の自分。甘い香りが部屋に広がる、暖かい、家族だった頃の記憶。
(甘さは幸せの味……っていうしな)
甘いものを食べるとほっとするのは、こういう所が起源なのだろうか。食べた時の暖かい記憶が知らず心を和ませてくれるのか。スペインの作る甘いチュロスの記憶が、自分の中に染み付いているのかもしれない。
……やっぱり手を動かしていないと、彼を思い出してしまう。頭を振り、焼き色を確認する。パイが焼きあがる頃、アントーニョは家に帰ってきた。
「ええ匂い~」
「いいタイミングだな。今焼きあがったところだ」
さくさくとパイを切れば、甘い桃の香りが広がる。ロマーノの手つきを見て、子供は思わずといったように感嘆の声を上げた。以前村で食べたがこの時代のパイは硬いもので、スープにつけたりしないと食べにくい代物。その点、ロマーノの作るパイはのちの時代の改良版。サクサクだ。
「イタリアは凄いなぁ」
食文化の違いを羨みつつ、アントーニョはパイを口に入れる。注意する間もなく行われた行為は、涙目で口元を押さえる羽目になった。
行く道も帰る道も無く、ただ一人立ちつくす。
(視野が広がればいいのにな)
ずっとスペインの背中を見つめてきた。そればかりを見続けていたせいで、もう首が固定されている。嫌になってもよそ見出来ない状況は、一体誰を責めればいいのだろう。
胸がじわじわと痛む。親子のように、穏やかに愛せれば良かった。恋愛小説で読んだ暖かい気持ちは自分の中には無く、ただ彼が欲しいという嵐しか無い。
内に秘めるだけの嵐はロマーノの胸を荒らし尽くし、ひび割れた心からついにスペインへと爪を伸ばした。
傷つけたい訳じゃなかった。悲しませたい訳でも。
彼が今までの関係が永遠に続くことを望んでいるのを知っていたのに。
(告白しなきゃよかった)
我慢するべきだったのだ。スペインのことを思えば。
相変わらず自分は親分を悲しませることしか出来ないと、後悔で湿った息を吐く。
結局あの告白はわずかばかり自分の心をスッキリさせるだけで、更なる苦しみをお互いの胸に植え付けた。プラスマイナスゼロどころかマイナス一直線。後悔しか浮かばない。
でも、我慢出来なかった。これ以上の苦痛に耐えられなかった。渦巻く愛情は汚泥のように胸に溜まり、憎しみにも似た狂気を孕んでいく。そんな感情を抱え人であれば数度一生を終える時間が過ぎ、このままでは危険だという自己防衛が働いたのかもしれない。
……思考は水のように流れ続ける。
だが流れる水はぐるぐると循環しており、回る度に思考は沈んでいく。浄水されない水はいつしか濁り、ロマーノの頭にもやをかけ始めた。
後悔。自責の念。あらゆる重圧がのしかかる。
ここで「何がなんでもスペインを振り向かせてやる!」とならない自分の自信の無さも、臆病さにも吐き気がした。
(桃でパイでも作ろう……)
そして、いつもの現実逃避。
ふらりと立ち上がり、台所へ移動する。粉を用意し料理する間は何も考えなくて済む。そういった意味でも、ロマーノは料理が好きだった。悩みすぎて自らを縛ってしまう状況から、一時的にでも離れられるのはありがたい。
脆弱な精神を守る為に作られたパイを釜に入れる。じんわりと焼けていく姿を見ていると、子供の頃の記憶が蘇った。こうして焼けていく様子を、ベルギーやスペインに笑われながらも見ていた子供の自分。甘い香りが部屋に広がる、暖かい、家族だった頃の記憶。
(甘さは幸せの味……っていうしな)
甘いものを食べるとほっとするのは、こういう所が起源なのだろうか。食べた時の暖かい記憶が知らず心を和ませてくれるのか。スペインの作る甘いチュロスの記憶が、自分の中に染み付いているのかもしれない。
……やっぱり手を動かしていないと、彼を思い出してしまう。頭を振り、焼き色を確認する。パイが焼きあがる頃、アントーニョは家に帰ってきた。
「ええ匂い~」
「いいタイミングだな。今焼きあがったところだ」
さくさくとパイを切れば、甘い桃の香りが広がる。ロマーノの手つきを見て、子供は思わずといったように感嘆の声を上げた。以前村で食べたがこの時代のパイは硬いもので、スープにつけたりしないと食べにくい代物。その点、ロマーノの作るパイはのちの時代の改良版。サクサクだ。
「イタリアは凄いなぁ」
食文化の違いを羨みつつ、アントーニョはパイを口に入れる。注意する間もなく行われた行為は、涙目で口元を押さえる羽目になった。
作品名:【腐】君を探す旅・3(完)【西ロマ】 作家名:あやもり