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【腐】君を探す旅・3(完)【西ロマ】

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「あー、もう。ほらよ」
 焼きたてなんだから、中のフィリングが熱いに決まっているだろと水を渡す。何とか口の中のものを飲み込みうへぇと出した舌は、心なしか赤くなっている気がした。
(氷が欲しいぞコノヤロー)
 口内のやけどを冷やしてやりたいが、氷は無い。『国』の回復力を祈り、ロマーノはパイを扇いで少し冷ましてやった。当の本人は気にせずパイを食べている。珍しいものを食べるのが好きらしい彼の食べる顔は、今のスペインとよく似ているようだった。
(子供の頃から変わってないってことか)
 ああ、何かもう抱きしめたい衝動に駆られる。本人とはいえアントーニョを通してスペインを見ている状況に、ロマーノは頬を緩めつつもはた、と気づいた。
 スペインもこんな気持ちだったのだろうか。好きな人の面影を持つ同じ『国』の子供。それを見守り育てるというのは、こんな気持ちだったのか。
 肘をついていた手で自分の頬を指で触る。誰かと重ねられる、というのはショックだった。あの場を逃げ出す程に辛かった。だが、冷静に今の状況を踏まえて考えてみる。
(やっぱり、……別、だよな)
 一応同一人物とはいえ、ロマーノには目の前のアントーニョとスペインを同一視出来ない。自分が愛したスペインに足りない何かがあり、それが感情を区別しているように思えた。
 スペインはどうだったのだろう。
 似た顔をした同じ『国』を受け取ったのは、オーストリアの思惑か彼の意思か。何にせよ、スペインから受けた愛情に偽りは無いと思う。
 彼は子供相手にそういう策を練るようなタイプでもないし、今の自分の状況もある。共に過ごした長い年月には、似てはいるが別人として愛情を注ぐだろうという信頼感があった。
(『今も追っているのかわからない』か)
 あのスペインの反応。今なら自分に置き換えて考えられる。
 目の前に愛する人の面影を持つ子供。それを別人と考えて育ててきたら、成長した姿は彼そっくりに。家族として愛していた筈が、姿を見ると心が揺れる……といったところか。
(んー、ガキん時はそう思ってなかったのに、俺がでかくなったから意識してしまうってことか? これは……どう捉えるべきかな)
 悩みつつピーチパイをほおばる。すごくプラスに考えれば、初恋の相手と連動して恋愛対象に入っているのかもしれない。逆に、似ているからこそ拒否反応を示す可能性もある。今自分が目の前のアントーニョに告白されても、受け入れるだなんて出来ないように。
 やっぱり、あの時話をきちんと最後まで聞くべきだった。何度目かも分からない後悔に溜息をこぼす。
 向こうに帰ったら、冷静に話が出来るだろうか。ピーチパイをかじるロマーノの浮かない顔を、アントーニョは不安げに見つめていた。



 出発の日は早く、二人は早朝から身支度を整える。まるで遠足に行くような気軽さで手を繋ぎ、集合場所へ歩いていった。集まった兵たちの中には見覚えのある者たちもおり、緊張が少しだけほぐれる。
 隊長と思しき男の無駄に長い話の間、眠そうなアントーニョの背中を片手で支えておく。ふらふらとしている『国』に気づかぬまま、話好きな男は脱線し続けた話をようやく終えた。
 隊列を組み、戦場を目指す。本来なら前に並んでいる筈のアントーニョは、何故かロマーノの居る後列の後方支援部隊に混じっていた。
「お前、ここに居ていいのか?」
 今日の食事を作りつつ、一緒に手伝っている子供に声を掛ける。作戦会議とか無いのかと心配するが、彼は平気だと首を横に振った。
「……お休み」
 ずっと傍に居る彼は、寝るときもロマーノと一緒だ。しっかりとロマーノの服を掴んで眠る姿に、本当はアントーニョも緊張しているんだろうなと思う。戦いへの恐怖から、知り合いの傍に居て安心したいのかもしれない。
 アントーニョを抱き寄せ、背中をゆっくり撫でる。目的地、二人が逃げ延びた村はもうすぐだ。そこを拠点にするという話だったので、以前場所を借りた老人に挨拶するのもいいかもしれない。
 腕の中の子供が無意識に確かめるように抱きついてくるのをくすぐったく思いつつ、ロマーノは張り詰めていく戦場の空気に緊張し始めた。