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【C83】新刊サンプル「別れの雨」【腐・西ロマ】

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 起床の時間を告げる使用人に新しい服を貰い、身支度を整える。ぽかんとしたままの弟の手を引きながら食堂へ向かい、ロマーノは屋敷の主人に挨拶をした。とにかく胃に詰めろといわんばかりの食事をするロマーノに代わり、オーストリアがヴェネチアーノにスペインの正体を伏せながら説明をする。
 教会で眠った後、スペインに保護されたこと。兄はスペインが引き取り、弟はオーストリアが保護すると決まったこと。ただ仕事が忙しく政敵の危険もある為、ヴェネチアーノは彼が寄付している孤児院へ行くこと。
 始めは豪華な食事に喜んでいたヴェネチアーノだったが、告げられる内容にどんどん表情は曇っていった。
「俺達、離れ離れになっちゃうの……?」
「ごめんなぁ、うちもあんまり余裕無いんよ」
「……兄ちゃん」
「そういうことだ」
 二人で孤児院に行くことは出来ない。自分はスペインと行く約束だからとロマーノは弟の懇願に首を振り、上質なオレンジジュースを飲み干した。
「面会はいつでも出来ます。落ち着いたら、顔を見せに行きなさい」
「はーい」
 オーストリアの先生のような台詞に返事をし、ロマーノは新しいパンを手に取る。今まで食べられなかった反動が手を無心に動かし、口を食べ物で塞いでいった。
「住む場所が違うだけで、同じ町やから心配せんでええよ」
 スペインが優しい声でヴェネチアーノを慰める。どうやら彼は町外れに家を持っているらしい。街中の孤児院とは結構離れているようだが、子供一人で行けない場所では無いので面会に問題は無さそうだ。
「飯が食えて、ちゃんとベッドで眠れるぞコノヤロー」
 弟を安全な場所に置くのが最重要。不安そうな視線を送るヴェネチアーノに今までよりマシだろと告げ、必ず会いに行くからと約束して何とか納得させる。後は自分が頑張ればいい。
 食事の手を止め、無言で小さく頷く弟の手をテーブルの下で握る。やがて握り返される手に力を入れて応えると、ロマーノは手を放し食事に戻った。

「ほな、行こか」
「……おう」
 スペインの手に引かれ、オーストリアの屋敷を出る。これから一体どうなるのか不安が胸を埋めるが、振り返った先、見送るオーストリアの横に立つヴェネチアーノの姿を見れば我慢出来た。
(じいちゃん……)
 本当にこれで良かったのか。疑問は頭に広がっていく。ただスペインの条件に乗らなければあの場で死んでいたかもしれず、また弟は保護されなかっただろう。
 繋いだ手はひんやりとしている。太陽の下をのんびり歩いているヴァンパイアに首を傾げるが、祖父の話を思い出し手に汗がじわりと滲んだ。
(そうだ、稀に日の光が大丈夫な奴が居るって言ってた。そういう奴は、ヴァンパイアの中でも特に強い奴だって)
 にこにこしているからうっかりしていたが、この男はどうやら上級ヴァンパイアのようだ。祖父に仕事を頼んでいたというオーストリアも「手に負えない」と言っていたと思い出す。それが本人の力だけではなく、知っているエクソシストでも無理という意味ならば……。
(俺、死ぬのかな)
 僅かな望みは、彼が自分にストレスを与えないよう気を遣ってくれるところだろうか。血を吸い尽くされるまでは大丈夫。その期間を延ばすことが、ヴェネチアーノを守ることになる。ロマーノは気合を入れると、真っ直ぐ前を向いた。