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【C83】新刊サンプル「別れの雨」【腐・西ロマ】

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「……逃げねぇよ」
 案内された部屋の前で足を止め、ロマーノは背後の男に振り返る。何も知らず連れてこられた弟とせめて今夜は一緒に寝たいと申請し、兄弟は同じ部屋で休むことになった。
 なのに、背後に張り付く男が居る。
「ここから逃げたって、死ぬだけだしな」
 数時間前の兄弟は教会でただ死を待っていた。あの状況に戻ると分かっていて、逃げる筈が無い。そう伝えてみても、スペインの瞳はこちらをじっと見つめていた。
「ここのベッドは大きいから、三人でも余裕やで」
 そう言い、手元のランプを下に下げる。ロマーノが顔を上げれば、暗くなった廊下の中でスペインの緑の瞳が不気味に輝いていた。どうやら引き下がる気は無いらしい。
「……並び順は、俺が真ん中だからな」
「はいはい。ロマーノはほんま、わがままやな~」
「うるせーよ!」
 扉を開ければ、広い客室に大きいベッドが一つ。その真ん中でヴェネチアーノが眠っており、静かな寝息だけが部屋に流れていた。
「そういえば、お風呂入れといたって言ってたで」
「……入る」
 家を追い出されてから、今まで着替えていない服であの柔らかで豪華なベッドに入るのは躊躇われる。濡れた体も温めたいしと隣接した風呂場に入ると、何故かスペインもついてきた。
「俺も雨で冷えたからな~」
「狭い」
 何故か一緒の風呂に入るはめになり、後ろから抱き締められる姿勢ではゆっくりも出来ない。思わず文句を口にすれば、スペインは可笑しそうに笑った。
「ロマーノは文句ばっかりやね」
 そう言う割には、気分を害した様子が無い。どうやら本当に強気の姿勢が好きなようだ。一応本当に機嫌を損ねないようには気をつけようと心に誓いつつ、ロマーノは監視の目を諦めスペインに寄りかかる。まるで男を椅子のように扱う態度に苦笑しながらも、スペインは大きな手を優しく動かしロマーノの髪を洗ってくれた。
(……この感じ、懐かしい……)
 思わず下を向いた顔から、ぽたりと雫が落ちる。
 他界した祖父も昔、こうして自分の頭を洗ってくれた。懐かしい気持ちと暖かい湯がロマーノの緊張の箍を外し、弟を守ろうと頑張っていた気持ちを決壊させた。
 ぽたり、ぽたりと雫が落ちる。唇を噛み締め震えながら声を我慢している姿を、スペインは背後からじっと眺めていた。
「寝巻き用意してくれとるみたいやな」
「面倒臭ぇ」
 用意された寝巻きを放棄し、ロマーノは全裸のままいそいそとベッドに入り込む。弟を横に動かした後、つるつるとしたシーツに寝転び大の字になった。温まった体に冷えたシーツが心地よい。
「ロマーノ、俺も入るからもうちょっとどいてや」
 唇を尖らせ抗議のポーズをとるものの、仕方ないので詰めてやる。穏やかに眠るヴェネチアーノに寄り添おうとすれば、少しひやりとしたスペインの腕がロマーノを引き寄せた。流石はヴァンパイア。風呂上りでも体温は低いらしい。
「冷てぇよ」
 火照った体に気持ち良かったが、逃がさないと拘束する腕が恐ろしい。低体温を理由に嫌がれば、スペインは少し困ったような顔をして腕を放した。
「ちょお待ち」
 くるりとこちらに背を向け、何やら呪文を唱えている。何だとロマーノが目をぱちくりとさせると、「これでええよな」にこやかな笑顔で振り向きまた抱き寄せた。
(あ、ちょっとあったけぇ……)
 先程までと違い、子供の体温よりは低いが一応冷たくはなくなっている。わざわざ改善する姿に、そんなに血が飲みたいのかと内心呆れた。
 美味しいものを食べる為には努力が必要ということか。妙に納得し、ロマーノは半ば投げやりに腕の中に納まる。
「眠いぞこのやろー……」
 お腹が一杯で、風呂でさっぱりして、布団はふかふか。あふれ出す眠気には逆らえない。一旦切れた緊張は戻らず、ロマーノの意識は深く沈んでいった。
「……」
 腕の中で安らかな寝息を繰り返す子供の首筋に鼻を埋め、男にしか分からない香りを嗅ぐ。甘く感じる香りは舌に残る味を思い出させ、背筋をぶるりと振るわせた。