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ここで生きていく

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0.ピンクの帽子

「畜生……イッシュじゃ電波違うのかよ!」
寝袋の横に置いていたラジオに怒りをぶつけるように叫ぶと、近くに落ちていた石を遠くに投げつけた。まっすぐと飛んだ石は、こつん、と軽い音を立てて動きを止めた。寝ていたのか髪の毛は所々跳ねている。特徴的な髪の毛がぴよんぴよんとしているその髪は好きじゃ無く、ぐしゃぐしゃと掻いたところで真っ直ぐにはならなかった。
 育ちは悪くないが口は悪く、しかも舌打ちまでするとラジオが入っている時計――ポケギアを睨み付けた。そこからはザーという砂嵐の音しかしなかった。イッシュにはラジオ塔が存在せず、当然ラジオが聴けるはずも無かった。イッシュではライブキャスターが主流になっており、所謂テレビ電話というものだ。だが、イッシュに来たばかりの人間がそんなものを持っているわけがなく、怒り叫ぶしかなかった。
 この子の年齢は十五歳。イッシュではこれぐらいの年齢で旅立つのが普通だが、この子は十歳から旅立っていた。それは、この子がイッシュではなく、カントー出身なのが理由だ。カントーでは十歳から旅立つのが普通で、例外なく旅立ち、ジムリーダーにも挑戦しているトレーナーで、ベテランとは言わないが、エリートトレーナーぐらいの地位だろう。ただ、スクール卒業生ではないのでエリートトレーナーを名乗れないだけで。
 「ポケギア使えない地方とかイッシュ地方まじウゼー! 時代遅れなのか最先端なのかはっきりしろよ! テレビ電話だけ使えますとか、そんなならネット機能も付けろよな!」
 そもそもこの子は家に帰るつもりが無いので、テレビ電話があっても意味が無い。ポケギアもジムリーダーの電話番号と博士の番号、そしてラジオのために買っていた。そのラジオが聴けないのは痛手だ。
 「なにがイッシュだよ! ベストウィッシュ? ベストウイッシュ? 知るか!」
 寝袋から出て、丁寧にも寝袋を仕舞ってから足元にあった石を蹴る。勢いよく飛んでいき、再びこつん、と音が――しなかった。首を傾げ石が飛んで行った方向を見ると、黒い帽子を被った人が見えた。さぁ、と背筋が凍る。静かに靴を履いて、鞄を持つ。バレないように、バレないように、と抜き足差し足忍び足。遠くにいるのでバレないとは思うが、それでもこちらから黒い帽子だと分かるように、向こうもこちらの姿は見えるはずだ。
 「……!」
 何かが聞こえ、無意識に背筋がピン、と立った。
 「うわぁぁっ! ムクホーク、空を飛ぶぅぅぅ!」
 ボールから出てきたムクホークは眠そうな顔をしていたが、指示に正確に飛んでくれた。ばさり、と翼を広げる音、それと同時に見えたのは綺麗な青空だった。だけど、その青空を満喫する心の余裕はない。地上から精一杯声を張り上げている男性が見えたけれど、ムクホークの背中に身体を埋めて逃げた。
 人間、一番重要なのは勘なのだと長い旅で知ったため、その勘が告げていたのだ。
 あの男はなんかヤバイ、と。
 ただ、急いでいたため、帽子を忘れてしまったことに気付くのは、それから一時間後の事。後で探しに行っても、帽子は見つからず、そのまま一か月が経つことになる。
 「あれ、ボス。いつも以上に怖い顔ですよ」
 緑色の制服、緑色の帽子を被った青年は首を傾げて上司を見た。駅員の格好をした、と言うより正真正銘駅員である彼に言われて急いで頬筋を伸ばそうとした『ボス』と呼ばれた彼だが、彼は元より笑う事が苦手なので伸ばしたところで意味が無かった。
 「カズマサ。わたくしはいつもと変わりません」
 「まあ、そうかもしれませんね。いつも通りにサボっていたみたいですし」
 「な、なぜそれを……!」
 「帽子に草が付いていますよ」
 黒い帽子に草がついており、しかも土までついているのだから、これで駅の中にいたとは言えないだろう。ノボリは一見わからないが少し不機嫌な表情になると、そっぽを向いた。意外と子供っぽい部分がある彼は、サボっていたことが知られて恥ずかしい気持ちも混ざったのか、顔を赤く染めていた。
 「ボスが赤い顔するなんて珍しい!」
 「カズマサ。静かにしてください」
 「あ。そう言えば先ほど差し入れがあったんですよ! 食べますか?」
 赤い果実は熟しており、がぶりと噛めば甘い味が口内で広がった。甘いのはあまり好まない彼だが、この味は好きだった。この果実は、常連の一人が持ってきたもので、その常連はよく持ってきてくれるのだ。家に樹があり、よく成っているので処理も含めて持ってきてくれる。
 「甘いですね」
 「でも美味しいですよね」
 果実とは逆に中身のない会話をしながら彼は種をティッシュに包んだ。黒い帽子を外すと銀色の髪の毛が見える。この地方でも珍しい髪色だが、これは遺伝ではない。両親は茶色の髪の毛だったし、祖父祖母も同じようによくある色だ。だからと言って染めたわけでもない。常連でも最初はこの特徴的な髪型(モミアゲ)と髪色に驚かれたが、今では慣れた。
 「お疲れですかボス」
 「疲れているわけ無いじゃん!」
 カズマサの質問に答えたのは彼ではなく、彼に瓜二つな青年だった。彼とは正反対に真っ白な服を着た彼は、笑みを浮かべているが声は怒っており、腕にいくつもの書類を持っていた。
 「仕事サボってどこ行っていたの。僕、シングルも代わりにやった!」
 「申し訳ございません。クダリ」
 「ノボリ、サボるのやめて! 僕もサボりたいのに!」
 黒い方はノボリ。白い方はクダリ。このギアステーションの最高責任者の二人は、似た者同士だが、髪の色だけは違っていた。ノボリが銀色ならば、クダリは両親と同じように茶色の髪色をしているのだった。
 同じ顔、同じ年齢、同じ体重、同じ身長。どこまでも同じ二人を区別するのは、その服の色と髪の毛の色だけだった。
 「あ。ボス二人とも! 時間ですよ!」
 放送がかかった。
 『――――バトルトレイン、シングルトレインダブルトレイン』
 その放送に、二人は指を同じ方向に向けて叫ぶ。
 「出発進行!」

▲▽

 人々の想いを乗せて走る列車とは言ったものだ。いくつもの感情を抱くトレーナーが乗っては負け、時には勝つ。それを繰り返す日々を続けている。
 ノボリとクダリ、サブウェイマスターとして何代目かは分からなくなるほどだが、この二人は双子のサブウェイマスターとしては三代目だった。過去に二組、双子としてサブウェイマスターに就任した人たちがいた。彼らは双子のコンビネーションを活用し、バトルトレインの主として相応しいバトルを行ってきた。今のサブウェイマスターが強敵に会えないのを嘆くように、彼らも嘆き、そして時には喜んできた。サブウェイマスターに就任した際に預けられた白黒の帽子。これは何代ものサブウェイマスターが被ってきた。この白黒の帽子は、サブウェイマスターとしての証、そして歴史の証明だった。
 「ノボリ、アララギ博士から連絡。新しいトレーナーが旅立ったらしいよ」
 「ほう、おめでたいことです」
作品名:ここで生きていく 作家名:津波