ここで生きていく
最後の勝負は、シャンデラとラッタの勝負だ。ここで、シャンデラは技を一つ封じられたことになる。ノーマルであるラッタにはシャドーボールが通用しない。そして同時にラッタもシャンデラにノーマル技は通用しない、ということだ。
「シャンデラ、おにび!」
「ラッタ、電光石火で避けろ!」
電光石火は攻撃だけと誰が言っただろうか。誰も言っていない。トウコはラッタに指示を出すと、さらにもう一つ。
「今だ、かみくだく」
「シャンデラ!」
トウコはこほん、と咳をした。
「――オーバーヒートです」
ラッタが離れようとした瞬間、シャンデラの身体が熱を発し、ラッタに炎をぶつけた。特攻が下がるが、その威力は高い。
「っち。やるじゃない」
「そちらも、強いラッタをお持ちで」
「パートナーだからね!」
長くなれば長くなるだけ面倒だ。一気に勝負を終わらせたい、という気持ちは二人とも持っていた。
そのタイミングが欲しい。
一気に勝負を終わらせる、そのチャンスが必要だ。
「――」
「――」
二人は黙り、ポケモンたちは動く。ラッタは極力近づかず、動きでシャンデラを翻弄するが、シャンデラもそれに動揺する様な『闘い慣れていない』ポケモンではない。
シャンデラが止まり、ラッタがシャンデラに飛び掛かろうと、ジャンプした。
その瞬間。
「――――今だ! オーバーヒート!」
「ラッタ、シャドーボール!」
それがチャンスだった。ラッタがジャンプした状態、空中でシャドーボールを放ち、シャンデラがオーバーヒートを。ハーブを持っていたのか、特攻は元に戻っており、威力は高かった。
お互いに地面に倒れた。
「シャンデラ!」
「ラッタ!」
二人が走った時、目を回していたのは――――。
「…………負けました。流石――サブウェイマスターですね」
ラッタ。
つまり、トウコの負けだった。
「泣くかと思っていました」
「私は泣きません。私は勝つためにこの子たちと旅をしているわけでは無いので」
「では、何故旅を続けているのですか?」
その言葉に、トウコは迷う。
「…………なんででしょうね」
トウコは笑った。
もう、トウコには迷いは無かった。ノボリとバトルして、ノボリと喋って、それだけで『何か』が見つけられたような気がした。
イッシュに来るまでずっと放浪し、ずっと何かを取捨選択していた日々は、無駄ではなかった。
「私が本気のノボリさんに勝ったら、教えてあげます」
「はぁ?」
廃人は嫌いだ。ポケモンを捨てて、殺して、愛情を向けないトレーナーばかりだから。
だけど、彼らのように――信頼があるならば、世界は変わる。
「私、このライモンに住んでみようかな?」
彼女は決して本音を話さなかったけれど、その日、バトルサブウェイに新しい常連が増えたのもまた事実だった。
終.この場所で生きていく
世界が平和になり、トウヤは友人に言われた『バトルサブウェイ』に訪れていた。ポケモンバトルを電車の中でする施設だと聞いていたが、電車だらけでどれがどれだか分からない。そのことに息を吐きながら、トウヤは看板の文字を読んでいく。
シングル、スーパーシングル、ダブル……などと様々な文字があるが、意味が分からない。その中で、一つ。マルチという看板が見えた。
「マルチトレイン……?」
首を傾げる。シングル、ダブルは何となく分かる。だけれど、マルチとはいったいなんだろうか。三体で闘うトリプルバトルではなさそうだし、よく分からない。
悩むよりも、乗ってみたほうが早いだろう、とトウヤは階段を下りてみると、鉄道員に止められた。どうやらこのマルチトレインとは二人で闘うトレインのこと、らしい。
つまり一人では乗ることもできない。
「そうですか。わかり――」
「ねえ、君!」
帰ろうとすると、階段から女の子が降りてきた。ニコニコと笑っていて、トウヤと似たデザインの帽子をかぶっていた。
「私、トウコ。ねえ、マルチトレインに乗ろうとしてたでしょ? 一人?」
「う、うん」
随分と元気な子だ。
「じゃあさ、私と一緒に乗ろうよ!」
そう言ってトウヤの手をトウコは握った。
どうやっても会えない二人が出逢ったそこは、ライモン。
イッシュの中心だった。
「――うん!」
そして、トウコは、トウヤは、この場所で生きていく。