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君と一緒に

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私の幼馴染は最近バトルサブウェイ、という施設に入り浸っているようで、たまに卵を持っているのを見かける。バトルが元々好きだった奴だけど、その施設に行くようになったから、さらにバトルをするようになったし、強くなっていると思う。
 私は博士に頼まれた『図鑑の完成』を目指しており、同じポケモンよりも違うポケモンを育てるタイプだが、幼馴染は違うようで、図鑑の完成なんかせず、捕まえているポケモンは多いものの、同じポケモンもよく育てている。
 私のような人間は「同じポケモンは捕まえない」のだけど、幼馴染はたまにメタモンを何匹も捕まえており、たまに理解できないことがある。
 そんな幼馴染のことを思い出しつつ、この間他の地方の人と交換したポケモンを撫でていると、上から音がした。翼を羽ばたかせる音に上を見上げれば、鳥ポケモンに乗っているのではなく、鳥ポケモンに掴まれて、今にも捕食されます、と言わんばかりの幼馴染がいた。鳥ポケモンはまさに獣の目をしている。あれ、このポケモン、確か幼馴染のエースじゃなかっただろうか、なんて思いながら三秒ほど固まり、叫んだ。
 「トウヤァァァァァッ!」
 頭に血がのぼっている幼馴染は声を出すのも辛そうに「や……ぁ……」と言っていたので、その時の私の心境を分かってくれる人がいるだろうか。いなくてもいいけど、とりあえず私は言いたい。
 「なんでそんな状況になっているの!?」
 地面に降ろされた幼馴染を背負い、私は幼馴染の家へと向かった。人は緊急事態には意外と力が出るらしく、全く苦痛を感じずに運ぶことができた。
 「おばさん! トウヤが!」
 「あらあら、また頭に血がのぼったのね?」
 「いつものことなの!?」
 最近カノコに戻ってなかったので知らなかったが、幼馴染はこのように帰ってくることが多いらしく、よくチェレンが運んでくれるようだ。
 鳥ポケモンを変えるべきじゃないだろうか、と思った私は悪くないだろう。
 「にしても、トウコちゃんすごいわねー」
 「火事場の馬鹿力って本当にあったみたいですよ」
 多分明日は筋肉痛になるだろうと思いながら息を吐くが、幼馴染は呑気にも寝ていた。いや、さっきまで死にかけていたのだから安心するべきだろうか。妙にこの鼻を掴んで起こしてやりたい衝動に駆られたが我慢しておくことにした。
 「じゃあ私はこれで」
 「ありがとう、トウコちゃん。今日はカノコにいるの?」
 「ええ。今日はカノコにいると思いますよ」
 お辞儀をして幼馴染の家を出ると、いつも通りの静かな風が吹いていた。毎日心地よい風が吹くこの故郷を好ましく思い、最後にはここに戻ってくるのだけど、それでも旅をやめることはできない。
 新しい仲間に会いたい、という気持ちを止めることはできずに、明日もまた別の町に飛び立つのだろう。
 「んー。明日はどこ行こうかなぁー」
 背伸びをして、明日のことは明日考えればいい、と思いながら家に帰る。


 「だったのになんで私はここにいるのか」
 そう呟きながらトウコはボールを握っていた。ガタンゴトンと一定間隔の揺れがあり、はっきし言ってしまえばトウコは電車に乗っている。しかも、そこでバトルしているのだから不思議な話である。
 ここは最近幼馴染が嵌っている施設『ギアステーション』の『バトルサブウェイ』で、そこになぜ自分がいるのかと言えば、幼馴染に頼まれたから、だ。
 別に急いでいる用事もないからと適当に頷いたのが悪かったのか、気づけばライモンシティのバトルサブウェイに行き、バトルをしていた。流れに負けてしまう自分を情けなく思うけれど、隣の幼馴染が楽しそうなのでいいか、と思ってしまうのだから、ずいぶんと甘い人間である。
 「トウコ、バトル得意じゃないとか言いながら強いじゃないか!」
 「トウヤのポケモンはさすがに強いよね」
 「何回も来ているからねー!」
 トウコが強いわけではなく、トウヤのポケモンが強いお蔭でなんとか20戦目まで到達した。そこには、今までは一般人のような、自分たちと変わらないような人がいたのに、そこには駅員が二人いた。一人は堂々としているが、もう一人はおどおどしており、緊張しているのがわかる。
 「お、トウヤやん。隣のは彼女か?」
 「違いますよ! 幼馴染です! てか、クラウドさん、隣の人は?」
 「あ、ぼ、ぼく! えっと、カズマサと言います! よろしくお願いします!」
 90度の綺麗なお辞儀をした彼を見て、トウヤは「ああ」と言った。
 「よく迷子になってるって有名の!」
 「う……今日はなんとかたどり着きました!」
 「何故か挑戦者としてシングルトレインに乗ってしまったところを保護されたんやろ」
 大きな息を吐いた駅員(クラウドと言うようだ)はボールを握ると、気分を変えたように口上を述べた。
 「ここまで来たことは誉めたる。やけど、もうお家帰り!」
 「えっと……負けるわけいかないので、ここで止まってもらいます」
 二人の台詞にトウヤはにやりと笑みを浮かべた。
 「こんな直前で負けるわけいかないんで! 帰りませんよ!」
 「よくわからないけど次で最後なの? じゃあ頑張ろうか」
 そして四人がボールを握り勝負が始まった。
 マルチトレインなので4匹のダブルバトル(マルチバトルと言うらしい)だが、トウコはバトルが得意なわけではないので、この長い勝負に飽きがきていたが、こんな直前で負けるわけにもいかず、指示を飛ばした。
 「頑張って!」
 
 勝負の結末は、トウコたちの勝利で、次の扉が開く。

 「トウコ大丈夫?」
 「こんなに長時間電車に立ってることなかったから……疲れてきた……」
 まだマシなのは、満員電車ではないことだ。密室で密度が高く、長時間立つ羽目になっていたら、トウコは倒れていたかもしれないが、少なくとも密度は高くないので立っていられるが、息が切れていた。
 「疲れ……た……!」
 「次で終わりだから」
 「次は我々のボスや、気張って頑張りぃ」
 クラウドの激励を受けつつ、なんとか次の車両に行くと、そこにはモノクロの双子が立っていた。片方は無表情、片方は機械のように固まった笑顔を浮かべており、最初に浮かんだのは『ピエロ』だった。
 ピエロのような不気味さを醸し出す二人はトウヤに向けて話しかけていたが、トウコはその姿を確認し、倒れた。
 「トウコ!?」
 「お客様!?」
 「……やっぱ電車……苦手」
 だって乗り慣れていないのに、いきなり乗せるんだもの。ここまで我慢できただけマシなほうなのだ、なんて思いながらトウコは目を閉じた。

 目を覚ますとそこに見えたのはピエロ……失礼、最終車両で出会った男の片割れ、白いほうだった。
 「クダリさん、トウコ起きました!?」
 「うん!」
 「……あれ、ここ」
 「ここは医務室ですよ」
 体を起こせばそこには黒いほうもいて、名前はわからないが、片方がクダリなので、こちらはノボリ、とかだろうか。だとしたら安直な気がするが。
 「トウコ、ノボリさんが運んでくれたんだよ」
 「安直だったか」
 「え?」
 「いえ、なんでもありません」
作品名:君と一緒に 作家名:津波