私は君で、君は私のもの
「ア、 ハ? そんなにあの子が大事?」
「決まっているでしょう!」
「小さいころからインゴに奪われ、壊されても怒らなかったのに、ナンデあの子は大事なのさ? 人としての感情が欠けているノボリが! ナンデあの子は大事だと思うワケ?」
「エメット!!」
クダリが止めるが、エメットは続ける。
「ボクたちはね、ノボリにフィアンセができたって聞いたから来たの。ノボリみたいな恋愛感情も、悲しみも、理解できないようなヒトといても可哀想だからネ!」
エメットは続ける。
「ノボリのフィアンセなんて、愛情を理解できないヒトといて楽しくない! 遠慮して、無表情なノボリに愛想尽かす! だから、その前に理解させてあげようと思ってネ!」
「あなたはかわいそうな人です」
インゴの目をまっすぐ見て、トウコは言い放つ。
トウコはインゴがノボリにどんなことをしていたのか知らないし、インゴも話すつもりがない。だけど、インゴの過去を知っているかのようにトウコは言い放つ。
「かわいそう……?」
「ええ。あなたは、かわいそうな人です」
トウコは背の高いインゴの頭を背伸びして撫でた。
「私はノボリさんのもので、あなたのものにはなれません。それでもあなたが私にそんな賭けを持ち出したのは、嫉妬です」
トウコの目は澄んでいて、インゴは目を離せなかった。離したらいけない、ような気がして仕方がなかった。
「あなたとノボリさんたちに何があったのかは知りませんけど、あなたは、ただノボリさんたちに相手して欲しかったのでしょう?」
それは、インゴも気づいていない事実だった。
友達になろうとしてもどうすればいいのか分からなくて、気づいたら相手に嫌われていた。それが、インゴとエメットだ。
「でも、諦めてください」
トウコはインゴに背中を向けた。
「え……?」
その時、鳥ポケモンが上空に見えた。それはケンホロウなどの一般的なポケモンではなく、化石から誕生する特別なポケモン――アーケオス。
だけど乗っているのは、クダリじゃない。
「ノボリさんは――――私のもの、ですから」
再び顔を見せた彼女。
本当に欲しいものは、見つかったとき、すでに手を離れていた。
「トウコ様!」
「ノボリさん」
昔から本当に欲しいものは、手に入らない。
「インゴ……!」
ノボリが自分に向ける視線は殺意が込められており、その表情を見るのは初めてだったため、少しだけ背筋に嫌な汗が流れた。自分がノボリに対して冷や汗なんて、初めての経験だ。いつだってノボリは無表情だったから。
「トウコ様に手を出したら――殺します」
「なぜ? あなたが何かに執着するとは珍しい」
彼が唯一執着したのはポケモンぐらいだ。バトル狂で、感情を見せないアンドロイドのような人間が、この少女にだけは執着する。
「エメットにも言われましたよ。ですが、言いましょう」
ノボリはインゴを睨む。
「愛する人を手放せるわけないだろうが! 馬鹿野郎!」
そう言ってトウコを強く抱きしめるノボリは、昔と違って感情が見える『人間』だった。
おまけ
「あの事件の後、二人の距離がすごく近づいてさ、来月に結婚すること決定したから」
「クダリ! ボクたちを利用したわけ!?」
「何言っているのさ? 君たちが勝手にやったことでしょ?」
本当に得したのは――誰なのやら。
作品名:私は君で、君は私のもの 作家名:津波