ホーム
【ホーム】
アムロは揺れる列車の窓から外を眺めると、ネオン煌めく街並みに白い雪が舞い降り始めていた。
「やけに冷えると思ったら雪か…」
流れる景色をぼんやりと見つめながら
外は寒そうだなぁ、コートだけじゃさむかったかなぁ
と、今持っている防寒具が少なかった事を嘆いていた。
すると、車内アナウンスが終着駅を告げる。
車内はにわかにざわめき始め、乗客達は頭上の棚から荷物を降ろしたり、コートを着込んだりと、降車支度をしだした。
列車が速度を落としてプラットホームにゆっくりと滑り込む頃には、出口に向かう人々が通路に列を作っていた。
列車はゆっくりと停車し、ドアが開くと、出口へ進む人波が動きだす。
それが一段落する頃を見計らって、アムロも席を立った。
アムロがホームに降り立つと、途端に冷たい風が吹き付けて来たので、襟元を合わせながら呟いた。
「うわぁ、やっぱ寒いなぁ〜」
「もぅ!遅いよぉ」
突然声をかけられ、驚いて相手の顔を見た。
可愛いらしい女性が恨みがましい視線を投げつけているが、まったく見覚えがない。
誰だろう?と首を傾げていたら、アムロの後ろから声があがった。
「仕方ないだろう。仕事なんだから」
「だからって、イブに残業する事ないじゃん!」
「俺が悪い訳じゃない。文句はクレーム付けた客に言え!」
「それってヒドくなーい!」
どうやらアムロの勘違いだったようだ。
突如始まったカップルの痴話喧嘩に巻き込まれない様に、慌てその場所から離れた。
アムロは少し離れた所で振り返ると、未だ喧嘩は収まりそうになかった。
男の事情が分かるアムロとしては彼氏の肩を持ちたいが、アノ言い方はマズイよなぁと思っていた。ここはイブを楽しみにしていた彼女の気持ちを立ててやらないと、こじれるばかりだぞ。
人事なのに、つい心配そうに二人を見つめていたら…
「君、いつの間に好みが変わったのだね?」
急にアムロの背後から落とされたその声が、一体誰のモノなのか。
振り返らずとも直ぐに分かる自分が、ほんのちょっとだけ恨めしく思った。
「君は可愛いらしいタイプよりも、どちらかといえば理知的美人が好みだと思っていたが……もしや、男の方が気になるのかね?少し離れていた間にストライクゾーンが動いたのか?」
「ばっ、ちっがぁーう!」
明らかに論点が変っている質問に対し、アムロは力強く否定して振り返った。
「ちょっとした勘違いがあって、あの二人を見てただけだ。お前と一緒にするな!俺は今でもノーマルだ!」
「ならば安心だ。これ以上、恋敵が増えるのは何かと面倒だからな」
傍目には安堵の表情を浮かべて微笑んでいるようにも見える金髪の美丈夫。
だが、彼の本質はこんな弱気なものではない。
「もっとも、君に余所見などする余裕は無いか。あったとしても、私だけを見させるのは容易いがな」
「うるさいぞ、シャア!」
シャアの台詞は自信過剰でも何でも無い。アムロには分かっているのだ。
今迄の経験上、アムロがどんなに抵抗してもシャアに簡単に屈服される。
だから彼の言葉通りになってしまう自分の姿が否定できないのだ。
それはアムロにとって、とても口惜しい現実なのだ。
「それで?何であんたがこんな所に居るんだ」
「無論、君を迎えに来たのだよ」
「俺は今日帰るなんて知らせ……って、言うだけ無駄か」
「ああ。君の居所は常に把握しているからな」
「あ、そ」
自信満々な表情で言い切るシャア相手にこれ以上の問答は無用だと、アムロは深い溜め息をついた。彼の言う通り、アムロが何所に居ようと、探し出せる能力が備わっているからだ。
「……あれ?キャスは?」
いつもならアムロとシャアが会話していると、必ず割り込んでくるキャスが見当たらない。
「キャスなら“食事”に出掛けた。君が『今日は帰れない』と連絡を入れた直ぐ後にな」
「そうか。…あ、あれ?あんたは行かなかったのか?」
「君が居るのにか?」
質問に質問で返されたアムロは、口をへの字に曲げて不機嫌な表情のまま愚痴る。
「別に俺に拘らなくても、あんたなら誰でもついて来るだろ。ワザワザ待ってなくてもさぁ」
「極上の美酒がソコにあるのに、安物で済ます気になど、私はなれんよ」
「や、安物って、……キャスが聞いたら何て言うか」
「それに待つ事に飽きたのなら、君が何と言おうと攫いに行くだけだ」
「…あ、そ、ですか…」
シャアは台詞的にかなり我儘な事を吐いているのだか、優しげな口調で語る言葉は、まるで愛の告白の様だった。
それを受けたアムロは、なんだか頬が熱くなっていくのを感じている。
「君はキャスが居なくて寂しいのか?」
「べ、別にそんな訳じゃない。ただ、一週間の出張だって言ってあったのに、週末過ぎても帰れなかったし。今日もいつ帰れるか分からなかったのも本当だし。だから、それじゃ悪いよなぁと思って連絡入れただけだし……って、あれ?」
なんだか言い訳じみた言葉を並べ立てていると感じたアムロは、なんでこんな事を言ってんだ?と、自分の言動に疑問を抱く。
すると、思ってもみなかった言葉がシャアの口から零れた。
「私は嬉しかったよ」
「えっ、何が?」
「君が連絡をくれた事がだよ。いままで残業になったとしても、一度たりとも連絡を入れた事が無かったからな」
「そっ、それは……えっと、一応、予定が変ったのは事実だし。昨日、キャスに『なんで連絡くれないの!』って散々愚痴られたけど、それはウザイと思ってたし…」
「うん」
しどろもどろになって言い訳を追加するアムロを、相槌を打ちながら優しく見つめるシャア。
「だから、また愚痴られるよりかは連絡入れた方がマシって訳でって、違う、そうじゃなくて。……あ〜っと、うん。そうだな」
自分でも何を言いたいのか分からなくなっていたアムロが一呼吸置いた。
「俺ばかりがあんた達に『仕事に支障をきたす関係は却下』って約束を守れっていうのは、何だかズルイような気がしたんだ。だから連絡した。うん。ただ、それだけだからなっ!!」
「ああ、分かってる。君は優しいからな」
「いや、そうじゃ無いって……だからだなぁ………っくしょん!」
冷たい風に晒され続けたアムロはくしゃみをした。
すると、シャアの懐からマフラーが取り出され、アムロの首に巻かれた。
「私が君を待っていたのはこの為でもあるがな」
ほかほかと暖かい温もりがアムロを包む。
「寒がりの君がマフラー無しで帰るのは酷だと思った訳だ」
「そ、そうか。ありがとう」
「どう致しまして」
素直に礼を言うアムロに、同じ様に返すシャア。
なんだか気恥ずかしい沈黙を破ったのはアムロの方だった。
アムロは揺れる列車の窓から外を眺めると、ネオン煌めく街並みに白い雪が舞い降り始めていた。
「やけに冷えると思ったら雪か…」
流れる景色をぼんやりと見つめながら
外は寒そうだなぁ、コートだけじゃさむかったかなぁ
と、今持っている防寒具が少なかった事を嘆いていた。
すると、車内アナウンスが終着駅を告げる。
車内はにわかにざわめき始め、乗客達は頭上の棚から荷物を降ろしたり、コートを着込んだりと、降車支度をしだした。
列車が速度を落としてプラットホームにゆっくりと滑り込む頃には、出口に向かう人々が通路に列を作っていた。
列車はゆっくりと停車し、ドアが開くと、出口へ進む人波が動きだす。
それが一段落する頃を見計らって、アムロも席を立った。
アムロがホームに降り立つと、途端に冷たい風が吹き付けて来たので、襟元を合わせながら呟いた。
「うわぁ、やっぱ寒いなぁ〜」
「もぅ!遅いよぉ」
突然声をかけられ、驚いて相手の顔を見た。
可愛いらしい女性が恨みがましい視線を投げつけているが、まったく見覚えがない。
誰だろう?と首を傾げていたら、アムロの後ろから声があがった。
「仕方ないだろう。仕事なんだから」
「だからって、イブに残業する事ないじゃん!」
「俺が悪い訳じゃない。文句はクレーム付けた客に言え!」
「それってヒドくなーい!」
どうやらアムロの勘違いだったようだ。
突如始まったカップルの痴話喧嘩に巻き込まれない様に、慌てその場所から離れた。
アムロは少し離れた所で振り返ると、未だ喧嘩は収まりそうになかった。
男の事情が分かるアムロとしては彼氏の肩を持ちたいが、アノ言い方はマズイよなぁと思っていた。ここはイブを楽しみにしていた彼女の気持ちを立ててやらないと、こじれるばかりだぞ。
人事なのに、つい心配そうに二人を見つめていたら…
「君、いつの間に好みが変わったのだね?」
急にアムロの背後から落とされたその声が、一体誰のモノなのか。
振り返らずとも直ぐに分かる自分が、ほんのちょっとだけ恨めしく思った。
「君は可愛いらしいタイプよりも、どちらかといえば理知的美人が好みだと思っていたが……もしや、男の方が気になるのかね?少し離れていた間にストライクゾーンが動いたのか?」
「ばっ、ちっがぁーう!」
明らかに論点が変っている質問に対し、アムロは力強く否定して振り返った。
「ちょっとした勘違いがあって、あの二人を見てただけだ。お前と一緒にするな!俺は今でもノーマルだ!」
「ならば安心だ。これ以上、恋敵が増えるのは何かと面倒だからな」
傍目には安堵の表情を浮かべて微笑んでいるようにも見える金髪の美丈夫。
だが、彼の本質はこんな弱気なものではない。
「もっとも、君に余所見などする余裕は無いか。あったとしても、私だけを見させるのは容易いがな」
「うるさいぞ、シャア!」
シャアの台詞は自信過剰でも何でも無い。アムロには分かっているのだ。
今迄の経験上、アムロがどんなに抵抗してもシャアに簡単に屈服される。
だから彼の言葉通りになってしまう自分の姿が否定できないのだ。
それはアムロにとって、とても口惜しい現実なのだ。
「それで?何であんたがこんな所に居るんだ」
「無論、君を迎えに来たのだよ」
「俺は今日帰るなんて知らせ……って、言うだけ無駄か」
「ああ。君の居所は常に把握しているからな」
「あ、そ」
自信満々な表情で言い切るシャア相手にこれ以上の問答は無用だと、アムロは深い溜め息をついた。彼の言う通り、アムロが何所に居ようと、探し出せる能力が備わっているからだ。
「……あれ?キャスは?」
いつもならアムロとシャアが会話していると、必ず割り込んでくるキャスが見当たらない。
「キャスなら“食事”に出掛けた。君が『今日は帰れない』と連絡を入れた直ぐ後にな」
「そうか。…あ、あれ?あんたは行かなかったのか?」
「君が居るのにか?」
質問に質問で返されたアムロは、口をへの字に曲げて不機嫌な表情のまま愚痴る。
「別に俺に拘らなくても、あんたなら誰でもついて来るだろ。ワザワザ待ってなくてもさぁ」
「極上の美酒がソコにあるのに、安物で済ます気になど、私はなれんよ」
「や、安物って、……キャスが聞いたら何て言うか」
「それに待つ事に飽きたのなら、君が何と言おうと攫いに行くだけだ」
「…あ、そ、ですか…」
シャアは台詞的にかなり我儘な事を吐いているのだか、優しげな口調で語る言葉は、まるで愛の告白の様だった。
それを受けたアムロは、なんだか頬が熱くなっていくのを感じている。
「君はキャスが居なくて寂しいのか?」
「べ、別にそんな訳じゃない。ただ、一週間の出張だって言ってあったのに、週末過ぎても帰れなかったし。今日もいつ帰れるか分からなかったのも本当だし。だから、それじゃ悪いよなぁと思って連絡入れただけだし……って、あれ?」
なんだか言い訳じみた言葉を並べ立てていると感じたアムロは、なんでこんな事を言ってんだ?と、自分の言動に疑問を抱く。
すると、思ってもみなかった言葉がシャアの口から零れた。
「私は嬉しかったよ」
「えっ、何が?」
「君が連絡をくれた事がだよ。いままで残業になったとしても、一度たりとも連絡を入れた事が無かったからな」
「そっ、それは……えっと、一応、予定が変ったのは事実だし。昨日、キャスに『なんで連絡くれないの!』って散々愚痴られたけど、それはウザイと思ってたし…」
「うん」
しどろもどろになって言い訳を追加するアムロを、相槌を打ちながら優しく見つめるシャア。
「だから、また愚痴られるよりかは連絡入れた方がマシって訳でって、違う、そうじゃなくて。……あ〜っと、うん。そうだな」
自分でも何を言いたいのか分からなくなっていたアムロが一呼吸置いた。
「俺ばかりがあんた達に『仕事に支障をきたす関係は却下』って約束を守れっていうのは、何だかズルイような気がしたんだ。だから連絡した。うん。ただ、それだけだからなっ!!」
「ああ、分かってる。君は優しいからな」
「いや、そうじゃ無いって……だからだなぁ………っくしょん!」
冷たい風に晒され続けたアムロはくしゃみをした。
すると、シャアの懐からマフラーが取り出され、アムロの首に巻かれた。
「私が君を待っていたのはこの為でもあるがな」
ほかほかと暖かい温もりがアムロを包む。
「寒がりの君がマフラー無しで帰るのは酷だと思った訳だ」
「そ、そうか。ありがとう」
「どう致しまして」
素直に礼を言うアムロに、同じ様に返すシャア。
なんだか気恥ずかしい沈黙を破ったのはアムロの方だった。