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「じゃあ、帰るか」
「君、食事は?」
「弁当食べたから別にいいや」
「ローストチキンとケーキなら部屋に用意してあるぞ」
「………」
いくら時期ものとはいえ、シャアの口から出た献立に対し、アムロは眉を顰めた。
「…あんたがキリストを祝うのか?」
「この国のクリスマスは節操が無いだろう?それに君も信心深い訳ではあるまい」
「そりゃあ、まぁ、そうだけど」
「ならば何の問題も無い」
アムロは、それはあんたが俗世に浸かり過ぎなんじゃないのか? と、心の中でツッコミを入れた。
「まぁ、いいや。帰ってから考える」
「そうしたまえ。心配せずとも、途中で腹が空いたのなら、私が食べさせてやるから」
「はぁ?って言うか、あんたヤル気満々なのか?」
「何を今更。私を一週間以上も放置していたではないか。たっぷりと味わさせて貰うぞ」
シャアの目が笑っていない。綺麗な笑顔が末恐ろしい。
「だからって、明日も仕事だって。平日に無茶言うなよ」
「おや?明日は休みだろう?」
「…何で知ってる」
「君の事なら何でも知っているさ。嘘をついても無駄だよアムロ」
「………」
アムロは血の気が引いて行くのを感じていた。
明日はのんびり惰眠をむさぼろうと思っていたのに、予定が丸つぶれだ。
深い深い溜め息をついた後、シャアを置いて歩き出すが、直ぐに追いつかれた。
「シャンパンも冷やしてあるが、ビールの方がよいかね?」
「…あー、もぅ、あんたの好きにしろよ」
「楽しい聖夜になりそうだな」
「……連日の徹夜明けで、また今日も徹夜になるのか。サンタでも神様でも誰でもいいから、俺に休みをプレゼントして欲しいよ」
「はははっ、だったら私を満足させれば済む事ではないか」
アムロは鼻先をマフラーに埋めて、ご機嫌なシャアの横顔をチラッと見た。
「あんたが満足ねぇ……、絶対にあり得ないよな」
もう一度深い溜め息をついたアムロは、足取り重く帰路に向かった。
改札を抜け、駅構内から外に出ると、街並みはうっすらと雪化粧していた。
終 2012/12/09