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薬指に証を

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 「ダメです。絶対にダメです。やってくれるまで離しません」
 ぺろり、と鎖骨を舐めてくるノボリさんを見て、ヤバイ、と思った。何がって、私の貞操とノボリさんの精神が。
 「わ、分かりましたからぁ!」
 「ではお願いします」
 またトウコの膝枕に頭を預けたノボリを見ながら、トウコは唾を飲みこんだ。
 この状態からキスをしろ、と言うのか。身体を曲げて、自分の膝で寝ているノボリにキスをしろと。
 だけど、ここで逃げることはできない!(トウコの背後に〝漢〟という文字が見える気がした)
 「の、ノボリさん、目を閉じてください」
 「直前で閉じます」
 前にキスを求められたときに、目を閉じているのをいいことに、ゾロア(♂)をキスさせたのが響いているらしく、今回は直前まで開けることにしたらしい。
 「ああ、あと、唇以外受け付けませんので」
 そう言って、彼はトウコの手を取ると、再び薬指を噛むのだ。今度は弱く、だけれど。
 「…………ああもう」
 意を決して、唇に触れる。本当に直前まで目を閉じてくれなかった。
 が。
 少し衝撃がして、目を開けると、彼を膝枕していたはずなのに自分が押し倒されていた。
 「の、ノボリ……さん……!?」
 「据え膳喰わぬは男の恥、と申しますよね?」
 「据え膳じゃありませんし、寝るって話は!?」
 「ええ、寝ますよ。トウコ様と一緒に、ね」

 余談だが、後日からトウコの薬指にシンプルな指輪がつけられることになる。
作品名:薬指に証を 作家名:津波