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「とこしえの 序章」

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その言葉が伝わったのか、まだ笑い方もわからぬであろう乳飲み子が、微かに笑んだ気がした。

 ここは小さな村のような場所だった。大きな土地こそ無いが、温和な領主の下領民たちは豊かに伸びやかに暮らしていた。戦乱とは縁遠い場所だ。
 しかし、人が居れば争いごとは起こる。
 今日も、哲博は村の同じ年頃の子供にいじめられていた。それは哲博が生まれたばかりの頃、父親の無いままどこか別の場所からこの村に越して来たから、皆、様々に噂してそれが子供たちに伝わって、哲博は気持ちが優しいのも手伝い、いつも気の荒い何人かの村の子供にいじめられた。
 突き飛ばされて、泥を掛けられ、蛙や蛇をけしかけられていつも泣いていた。しかし、そんなとき決まって起こることがある。
 あぜ道の向こうの方から、1人の子供が猛然と掛けて来て、哲博をいじめる自分よりひと回りもふた回りも大きい子供を突き飛ばして言い放つ。
「哲をいじめるな!阿呆ども!」
「暴若だ!暴若が来たぞ!」
「叩かれるぞ!」
「肥だめに落とされるぞ!」
哲博をいじめていた子供たちは蜂の子を散らすように、『暴若』と呼んだ子供をからかいながら去って行く。それを見て、『暴若』は悔しそうに歯を食いしばって、ちっと舌打ちすると、今度は擦り傷だらけ、泥まみれでぼろぼろに泣いている哲博を睨みつけた。
 哲博はギクリとして、身を縮めた。
「馬鹿か!お前もなんでいつもやり返さない!」
地団駄踏んで悔しがると、ペシリと哲博の頭を叩いた。
「吉兆丸さま、ごめんなさい、ごめんなさい」
哲博は地面に手をついて何度も泣いて謝るので、『暴若』こと、吉兆丸は眉間に皺を寄せて口を尖らせると、哲博の泥まみれの服を掴んで立たせようと引き上げた。
「泣くな!哲!男は痛くても辛くても泣いてはならん!」
「・・はひっ!」
立ち上がりながら、懸命に返事をすると涙を泥まみれの腕でごしごしと拭い、ずびっと鼻をすすって懸命に涙をこらえて、吉兆丸を見上げた。
 その様があまりに可愛く、あまりに健気で、でもあまりに滑稽で、とうとう堪えきれずに吉兆丸はむずっと顔を歪めて、大声で笑った。
「哲、お前、変な顔だ」
変な顔と言われて、哲博は顔を真っ赤に染めて袖で隠した。
「そ、そんなに可笑しゅうございますか」
「うん、可笑しい」
そうあっさり言うので、哲博は増々顔を赤くして両腕で顔を隠した。しかし、吉兆丸はその腕をぐいと掴むと、手を握ってやや強引に歩き出した。
「そのなりでは、母様が驚かれるだろ。俺の家で清めて行け」
「あ、あ、はい、ありがとうございます」
まだ顔が赤かったが、手を引かれるままあぜ道を歩き出した。
 何となく、しばらく無言のままで歩いていたが哲博は、あっと言って先ほど聞いて来た話しを切り出した。
「そう言えば、吉兆丸さま、ご兄弟がお生まれになるとか」
「うむ」
吉兆丸は弾むように頷いて、哲博を振り返った。
「きっと弟だ!そんな気がする」
よどみなく答える吉兆丸を眩しそうに見て、哲博はすこし目線を下げた。
「そうなりましたら、吉兆丸さまはきっと弟御に夢中になってしまわれますね」
それが少し淋しいと、哲博は思う。しかし、吉兆丸は感傷的にそう語る哲博の頭をぱしん!と叩いた。
「何を言うか、お前がもっとしっかりしてくれなくては、弟に夢中になるなど努々できぬわ」
叩かれた頭を抑えて、きょとんと吉兆丸を見上げた哲博を今度は優しく撫でて言う。
「お前も、自分の弟と心得て、弟に恥じぬ兄になれ」
「・・・はい!吉兆丸さま」
もうすぐ、自分にも弟ができる。哲博はわくわくとして、目を輝かせて笑った。その顔を見て、吉兆丸は満足げに頷くと、また歩き出した。
 しかし、哲博は、弟に会う事はかなわず、ある晩にこつ然と姿を消すのである。
 その母親は、半狂乱になって哲博を探した。もちろん、吉兆丸も、いつも哲博をいじめる子供たちも、領民たちがこぞって協力して哲博の行方を探したが、とうとう見つける事はできなかったのである。

 この物語は、これより15年後より始まる。
 時はまもなく戦乱の世となり、穏やかに豊かに暮らして来たこの国も、例外無くその濁流にのまれてゆく事となる。
 15年前、吉兆丸だったあの『暴若』も、元服して巽宗一と名を改め、領民を守るべく、その戦乱の世を駆け抜け己の運命と対決していくこととなる・・・・・。


序章〜完〜


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作品名:「とこしえの 序章」 作家名:のんびり