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「とこしえの 第一章 初陣(1)」

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吉兆・・・という名前を哲博が口走りそうになって、宗一はぎゅっと胃が締め付けられる気がした。
「面を上げよ、哲」
下げていた頭を少しだけ上げた。
「こちらを見よ」
そう命令するが、一向に哲博は目をこちらに向ける事はせず、それはご勘弁を、と増々視線を下げてしまったから、宗一は頭に来てその頭を掴むと無理矢理こちらを向かせた。
 向かせたその目には、涙をなみなみと湛え、その顔に満足した宗一は言った。
「よく帰って来たな、哲」
言ってやると、その瞳から次から次へと涙がこぼれ落ちて、顔を歪めたその泣き顔は確かにあの小さい哲博と同じだった。 声もあの頃よりも低い、体も何倍もあって、自分よりも大きくなった。しかし、この男は確かにいじらしい哲博なのだと宗一は一片の曇りも無く確信した。そして、今まであの小さい甘ったれの泣き虫がどんなにか苦労してきたのだろうかと思うと、少し切なくなった。
「吉兆丸さまぁ・・お会いしとうございました」
「宗一と呼べ、阿呆」
宗一もこみ上げるものがあったが、ぐっと堪え、笑って哲博を小突いたあと後頭部を掴んで自分の肩口に引き寄せると、哲博もそっと宗一の直垂を掴んで声も無く泣いた。
 小さい頃、たった数年共に過ごしただけのこの男がどうしてこんなにも懐かしく思うのだろうか、そしてどうしてこんなにもあの記憶は鮮烈なのか、宗一も自分が不思議でならなかった。
 だが、今胸を占める気持ちはただ一つだった。
 ああ、帰ってきた、自分の腕の中に。
 それは、まさに、歓喜の出来事であった。


続く


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