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「とこしえの 第一章 初陣(1)」

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 宗仁が待ちかねたと言うからには、この客人は自分に用事があるのだ、と、宗一は解釈して彼らをしばらく立ったまま眺めたが直ぐに、はい、と短く返事をして、宗仁の居る奥の間の宗仁の側に腰を下ろした。
 手前の間の中央に居る男は細身の男だったが、その後ろに控えるように頭を下げる男は非常に体が大きく、直垂の下は鍛えられた体をしていると、宗一は思った。
「面を上げられよ。森永殿」
宗仁が二人に声を掛けると、二人は少しだけ頭を上げ、それを見届けると宗仁は宗一に顔を向けた。
「森永家は知っているな。宗」
「はい」
森永家は菜護の国に隣接する山間に古くから存在する国人領主の一族だ。今までも特にもめ事も無く、友好関係を続けてきていた。確か、先日領主が亡くなったと聞いていた。ではこの若い男は新しい領主ということか。
「こちら、国博殿だ。このほどの我が国の戦に手助けしていただけるとの事、申し出てくださったのだ」
宗仁が簡単に説明すると、宗一は目を見開いて宗仁を振り返った。
「こたびの戦、我が森永家も他人事ではございませぬゆえ、こうしてまかり越しましてございます」
抑揚のあまり無い声で、国博は毅然としてそういうともう一度頭を下げた。後ろの男も、国博に習い頭を下げる。
「戦場がお里の近くになりそうでな、あの国の連中にはいつも悩まされておったそうだ」
「国とは申せません。山賊のような奴らです」
「だ、そうだ」
宗仁は、宗一を見て笑った。
 もちろん助太刀が加わることは菜護の国にとっては喜ばしいことだ。森永家と言えば文武両道で有名な一族だが、この内容が必ずしも自分を待ってまでするような話しではない気がしてならない。嫡男として戦に出るならばこういうこともあるのかとも思ったが、それだけではないのではないか。元来の注意深さでそう推理すると、宗仁を見た。
「で、本題に入りたいのだが、国博殿」
宗仁が宗一の目線を受けて国博に促すと、国博は少し中央から退いて、後ろに控えていた体の大きい青年を少し前に座り直させ、もう一度頭を畳みに着くくらいに低く低く下げた。
「この者、私の弟にて、どうか宗一様の小姓にしていただきたく連れて参りました」
「森永哲博にございます」
その名を聞いて、宗一は眉間に皺を寄せ、宗仁を振り返ったが、宗仁はただ笑っているだけで宗一の疑問に答えようとしない。
「聞けば、宗一様には小姓がまだお出ででないとの事、我が弟はこの通りの図体でございますから、こたびのご出陣、矢避けくらいにはなりましょう。是非お連れ頂きたく」
国博の説明中、じっとその『哲博』のつむじを睨みつけた。
 名前が同じなだけなのだろうか。それに、記憶にあるあの小さい哲博とはあまりにも格差を感じる成長ぶりで、もし生きていたらと想像していたものと遥かに違っている。ただ、まだ顔を見ていない。このでかい図体だ、全く面影も残さず成長している可能性もあるし、全く別人かもしれない。そう思って、宗一はでかい図体の『哲博』に声を掛けた。
「哲博とやら、面を上げよ」
声を掛けると、は、と、鋭く息を履くような返事と共に『哲博』がゆっくり顔を上げた。
 その顔を見た途端、宗一はズキリと胸が大きくうねったのがわかった。
 疑いようも無くあまりにも面影のある、図体に似合わぬ童顔の、あの哲博の成長した姿がそこには有った。

 正直な気持ちを言えば、宗一は小姓などいらないと思っていた。
 いつも近くに居て、身の回りの世話もするなど鬱陶しくてかなわないと、そう思って置いて来なかった。守役の男だけでもうんざりしていたのだ。だが、これは例外だと、宗一は自分を納得させる。
 このでかい男が、本当にあの哲博だと言うのなら、置いてやっても構わない、いや、もしあのとき居なくならずにこの国で育っていたら当然いずれは小姓として側に置いていただろう。しかし、今までの自分の言動を鑑みると素直に二つ返事で了とは言えず、小姓などいらぬが哲博とやらが使える男かどうか試してやる、そう強気に言ったが、国博は宗一の強気をするりと避けて、それで構わなないと了承すると挨拶してあっさりと引き下がり、哲博を屋敷に置いて帰ってしまった。
 そして、今、応接の間に二人だけ残されてしまって、言葉無くどのくらい過ぎただろうか。流石に宗一も居心地悪く自室に戻ろうと立ち上がると、哲博も立ち上がり何歩か後を着いて来た。自室に戻ると、入れと言うまで廊下に控えて宗一をいらつかせた。
 宗一は立て膝で座って、部屋の角に控えめに座っている哲博をしばらく眺めていた。
 体こそでかいが、やはり、どう見てもあの哲博だと思う。
 しかしどういういきさつで森永家の次男坊に収まったのか。何故、今更戻ってきたのか。
 そう考えると、どんどんこの男が憎らしくなってきた。あんなに心配して探しまわって、もう死んだかもしれない、いや、生きてるかもしれないと、思ってきたこの男が前触れも無くあっさりこうして現れた事に、腹立たしさを覚える。だから、宗一はその腹立ちを隠す事無く、ぶっきらぼうに言った。
「おい、お前、お前、哲、だな?」
そう聞けば、そっと、宗一に体を向けて頭を下げた。そうだ、と言う事らしい。しかし、それで答えとするのにもいちいちいらついた。
「何処に行っていた」
聞くと、何か答えているようだが、顔を伏せたまま静かに話すので宗一は聞き取れない。
図体がでかいくせに、そういう所は、あの泣き虫の哲のままか、と忌々しく思った。
「聞こえぬ。哲、近う。もっと近うで話せ」
言ってやっと、部屋の角から畳み1枚分くらいだけ近くにずりりと寄っただけだったので、もう宗一は我慢ならず、ばんばん!と畳を叩いて怒鳴った。
「ここだ!ここに来い!哲!」
すると、哲博は頭を下げたままするすると近づき、叩いた辺りに座り直して改めて頭を下げた。
 その様子にちっと舌打ちすると、もう一度同じ質問をする。
「何処に、行っていた、哲」
「行っていた、のではございませぬ」
小さく、少し震える声で答える。緊張しているのか、宗一は下げる頭の後頭部をなんとなく見ていた。
「行っていたのは無いのなら何なのだ」
哲博の回りくどい話し方が気に食わない。
「拐かされたのでございます」
「なんだと?」
ぴくりと眉が轢くついたのがわかった。もちろん、怒りでだ。
 この里で、子供の拐かしなど、宗一が知る限り一度も無いことで、それが事実ならばあの探し方で見つかる訳が無いと、宗一に少なからず後悔の念が湧いてくる。
「俺を拐かかした男が申すには、我が父は抜け忍であったと言うのです」
「抜け忍・・・」
この哲博の実の父が忍びのものと言う事か、と、宗一は眉間に皺を寄せた。
「父は抜け忍なれど、忍びの血を絶やさぬため、俺を攫ったと、そう申しておりました」
俄には信じがたい話しだが、忍びの隠れ里の話しは聞いた事がある。また、何処から来たのかも言わず母子で移り住んできた哲博の母の事を考えると、辻褄が合う。
「では、お前は忍びの者なのか?」
「いいえ」
簡潔に答えた。それ以上は答えられぬ、と、言っているのだと宗一はわかった。
「しかし、吉兆・・宗一様をお守りするためなら、忍びの技いかようにも使うつもりでございますれば、どうか、お側に」