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「とこしえの 第一章 初陣(2)」

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「とこしえの 第一章 初陣(2)」

 菜護の国は山を背にして本陣を構えた。
 斥候の知らせにより、敵方能見の国は川を背に陣を敷いた事がわかっていた。数は二千程。その陣構えはまさに背水の陣であり能見の国は何かを狙っているのは明らかだった。
 能見の国は、森永国博の言うように、盗賊の域を出ぬ非常に小さい国だ。荒くれ者が集まって、嫌がらせのように国境に攻め入ること何度となくあったが、このように意味を持つ陣の敷き方をしたのは初めての事で、菜護古参の武将たちは一様に驚きを隠せなかった。
 何か仕掛けて来る事を注意せねばならないのは明らかで、しかし、菜護古参の武将たちは経験豊富なれど単純な戦以外に経験は無い。軍議の際も口々に意見を言ってざわめき、しかし、答えは出なかったのである。
 宗一は焦りを感じて自分の後ろに控える哲博に目をやった。哲博はその目線を付けながらも意見を持たないらしく、伏せるに留まった。自分は宗一に従うと、そう言っているのはわかっているが、苛立ちで舌打ちが出た。
 これは今まで自衛に努めた菜護の国にとって初めての戦になるだろう。それは自分が初陣以上に危うい事であった。
 嫌な予感がすると、宗一は思っていた。その嫌な予感が、初陣から来るものなのかそれとも敵の敷いた背水の陣によるものなのか。経験に乏しい自分にはその考えをまとめる力は残念ながらなかったのである。
 いずれの諸将からも別段案らしい案が出る事も無く、まさに手ぶらのまま、宗一の出陣の刻限がやってきた。
 宗一の率いる兵の数は、約二千と相手方とほぼ同数であった。そして、本陣に居る宗仁の率いる千五百の兵を入れれば相手を数で圧倒し、先鋒に何かあればすぐに救援に駆けつけるだろう。
 宗一は山道で慎重に馬を操作しながら進んだ。哲博も馬に乗りすぐ後方を着いてきているから、宗一は少し後方を振り返る。付け慣れぬ甲冑が邪魔で眉間に皺が寄った顔で哲博を見ようとものだから、その様子を察してにっこりと笑って宗一を見た。
「大丈夫ですか。宗一さま」
「笑うな、阿呆」
振り返ったことで、少し甲冑がズレてしまい哲博から顔を背けて馬上にて居住まいをただした。
「はい。申し訳ござりませぬ」
そう言って、またくすくすと笑うから宗一はもう何も言わずもう振り返る事も無かった。
 山道はやがて、なだらかな坂道へを姿を変えると、前方から斥候が走ってきて宗一の近くに跪いて一礼すると馬の歩調に合わせて腰を低くしたまま歩いた。
「どうした」
宗一に同行した古参の武将の1人がかわりに声を掛ける。
「敵の数、約千五百、間もなく間もなく動き出す由にございます」
斥候の報告に、宗一は表情を変えた。
 千五百だと?眉間に皺を寄せて、その意味を考えている所で、帯同の将は大きく頷いて言った。
「あいわかった」
斥候は頭を下げると、また来た方に戻って行く。
「若、こちらの想定通りの場所にて、戦となりましょう」
「本陣で聞いた数は二千だ。しかし、今の報告は千五百と言ったぞ。五百はどこへ行った?」
武将は、は?と、一瞬惚けたような表情を下が、直ぐにぐっと顔を引き締めて四角い顎をがくがくと動かして豪快に笑った。
「若、数など斥候によって違うものです。お気にめさるな!」
「だが、斥候が報告する数に三割もの数の誤差がでるなど・・・・」
そこまで自分で言ってから、はっとして、顔を上げ、思わず馬の手綱を引き締めると、馬が立ち上がるように止まり後方に顔を向けた。
「どうされた、若」
四角い顎の将は怪訝な表情で宗一を見ている。初陣に恐れを為したのかもしれないと考えていたかもしれない。
 しかし、宗一は全く別の事を考えて、それから、ちっと大きい舌打ちをした。
「もう遅いか・・!」
「宗一様。私が見て参りましょうか」
直ぐに宗一の考えている事を察した哲博が宗一の顔を首を傾げて見るが、宗一はすぐに、ならん!と、一喝する。
「お前はオレの側におればよい!後ろは父上が何とかするだろう!」
それに、とも思う。
 それに、ここで兵の一部を後方に割いて本戦で負けては意味が無い。それに、本陣に奇襲がかかるかもしれないと言って兵を動揺させるのも避けたい所だ。ならば、一刻も早く勝って、本陣に取って返さねばならない。そうしなければ下手を打てば挟み撃ちに合いかねないからだ。
「陣ぶれするぞ」
「若、いささか早うございますぞ!」
「構わん、陣ぶれのあと一気に駆ける!」
そう言って、宗一は、は!と、馬の腹に足を入れると一気に駆け出した。間髪入れずに、その後を哲博の馬が追う。古参の武将はその姿をあっけにとられて見送り、慌ててその後を追いかけた。
 宗一は、進軍中の兵たちに駆け抜けながら叫んだ。
「この戦、我が初陣にて、負ける事許さぬ!しかし!我が初陣にて、死ぬ事も許さぬ!」
やがて、宗一は兵の先頭にたどり着いた。興奮している馬はばたばたといさんで足踏みし、宗一はそれを制御しながら尚も叫ぶ。
「戦い、勝って、国に戻る!」
宗一は腰の刀を抜き、敵の能見の陣の構える方向へ向けた。
「攻め入らせるな!そなたらの土地を守れ!もう二度と手出しできぬよう叩きのめすぞ!」
叫ぶと、菜護の兵たちは、おう!と轟音にも似た歓声が上がった。
 宗一は進行方向に刀を向け、馬の頭を向けると馬はいきり立って立ち上がった。
「菜護の守護者たちよ、恐れぬ者たちよ!我に続け!」
叫んで馬の腹をどかりと蹴って、一気に駆け出した。その後を追うように菜護の兵たちは一気に動き出す。
 あまりにも予定より早い動き出しに古参の武将たちは慌てて馬を動かし始める。宗一の陣ぶれに付いて来れたのは若い兵や武将たちだけであった。
 古参の武将たちは、それを宗一の初陣故の勇み足とその時は思っていた。予測された戦場に着いたときに兵が疲れ果てるのではないかと、危惧もしたが結果的に直感で動いた事は正解であった。
 能見の国の進軍は菜護の武将たちの予測を遥かに越えて早く、山道が開けて直ぐに戦闘状態に突入したからである。
 能見の兵が陣容を整える前に宗一率いる菜護の兵たちはその横っ腹にまさに不意打ちを食らわせたのだ。

 進軍中であった能見の兵から見たら、菜護の国の兵は突然現れたと言ってもよかった。先手を打っているはずであったのに、逆に先手を打たれた恰好になった。
 もう少し時間を稼ぎたい所だったが、戦が始まって待ったはない。まさに乱戦の様相を呈した。
 間者の話しであった、初陣であるはずの菜護の国の嫡男の戦いぶりはまさに勇猛そのもので、菜護の兵の士気は非常に高く、能見の兵は押しに押されてとうとう本陣を敷いた河原にまで戦場が広がった。
 元々が、荒い事だけが取り柄の統率には掛けた兵たちであるから、それも視野に入れての排水の陣であったが、まさかここまで使えぬとはと、能見の兵を率いる将は落胆せざるを得ない。
 だが、真の目的はまだ達っそうと思えば達す事ができる。手の者が作り出すだろう隙が生まれる時を待つだけだ。
 この能見の国の利用価値など、始めからそれ以外の何者でもないのだから。

 宗一が見る限り、既に勝敗は見えた。先ほどまで刀を振るって自ら戦ったが、今では後方に下がって戦局を見極めていた。