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「とこしえの 第一章 初陣(2)」

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 菜護の軍は敵の本陣にまで入り込み、能見の兵は統率を無くし敗走を始めて川に飛び込む者も出る始末だ。
それを見るや、宗一は哲博に声を掛けた。
「哲!本陣に戻るぞ!」
「はい!宗一さま」
哲博はすぐさま反応し宗一と共に本陣に向かう手勢を数十人集める。初陣の宗一の目付として帯同した武将が驚きの声を上げる。
「ここまで来て退却とは!若!」
「阿呆!そなたはここに残り、この戦の後始末をせよ」
そう言い残すと、将の静止も聞かずに宗一と哲博、それに極少数の手勢が一斉に来た道を戻り出した。本陣に戻るのには一刻ほどかかる。恐らく奇襲を受けているだろが数の利があるのでそう簡単にはやられる訳が無い。そう信じて行くしか無いのだ。十数人の手勢であっても援軍となれば戦局は一気にひっくり返るだろう。しかもそれによって敵の負けを知らせる事もできるのだから。
 ああ、くそ!あまりにももどかしい。これが最良だったのかと言われれば、そうではないと思える。しかし、経験の浅い自分にはこんな方法しか思いつかなかったのがあまりにも情けない。
 ここがもし、ただ屋敷の自室だったのならば、もう何かしらの物を投げて八つ当たりして、守役に叱られていたかもしれないと、宗一は思った。
 とにかく急ぐしかない、急いで急いで、本陣を守らねばならない。
 宗一の意識が完全に本陣に一刻も早く戻ることに集中したまさにその時、宗一の少し後方を走っていた哲博が辺りの異変に気がついて慌てて宗一に声を掛けた。
「宗一さま!お待ち下さい!」
「なに?!」
宗一が哲博を振り返ったまさにその瞬間、木々のどこかから何筋もの矢が降り注ぎ、その内の一本が宗一の乗った馬の後ろ足に刺さって、驚いた馬が立ち上がって宗一は不意を突かれて馬上より放り出され、甲冑がガリャリと金属がぶつかり合うような音を立てたが、宗一自身は低木の影に落ちて姿が見えなくなった。馬も地面に倒れ、足から血を流してもがいている。
「宗一さま!」
哲博は慌てて馬を止め、馬上より飛び降りたとき、宗一に止めを刺さんと木々の上より何人もの武士が飛び降りてきて刀を構えて低木にザクザクと入って行く。
 哲博は、させてなるものか、と甲冑の中よりクナイを二本取り出すと両手に構え、宗一が落ちた辺りに向かう武士たちの間を平素とは明らかに違った動きでもって駆け抜け、宗一の所にたどり着き、倒れている宗一を背に武士と対峙した。
 宗一は落ちた衝撃で意識を失っているらしく、ぐったりとして動く気配がない。哲博は直ぐにでも宗一の様子を見たかった。
 相手は、能見の兵、7人。後ろに付いてきた、菜護の兵もそれぞれが奇襲の兵と戦っている。
 始めからこれが狙いだったのか、それとも、これも策の内なのか、一瞬哲博は思いめぐらせたが、ふるっと顔を振って雑念を飛ばす。今は宗一をこの7人の兵から守る事だけ考えろ。
 哲博は男たちを睨みつけて、頭に被った兜を脱ぎ捨てると手を交差するようにクナイを構えて身を低くした。
「その小さい刀で、勝てると思ってるのか?腰のモノは飾りか?小僧!」
先頭に立った、無精髭面の小汚い恰好の武士が哲博をみてせせら笑った。その様子に、二人を取り囲んだ他の男たちも卑下した声を上げて笑った。
「それ、菜護の嫡男だな、こちらに渡せば助けてやる」
「連れて行きたくば、オレを殺せ!下衆ども!」
哲博が啖呵を切ると、先頭に立っていた男がにやけ笑いのまま、大刀を振り上げて哲博に切り掛かってきた。哲博はそれをすいと右に避けると避け様に男の左の手首に左のクナイを滑らせ、横をすり抜け様に右の拳を振り上げるようにして、男ののどをかっ捌き頸動脈を切り裂いた。
 先ほどまで薄ら笑いを浮かべていた男は血を吹き上げながら自分が付けた勢いのままその場に倒れ込み何度か痙攣して絶命した。あまりにもあっけなく、そしてあっという間のことで恐らく本人は自分が死んだ事も気がつかぬうちに死に絶えた事だろう。
 これで終わりではない。血を浴びながらも、哲博は直ぐにクナイを構え直し残りの6人を睨みつけた。
 残りの男たちはそれを信じられないものを見る目で始めこそ驚いて身を固くしたが、直ぐにいきり立ち怒りを露に一斉に哲博に襲いかかった。
 それに、哲博はひゅっと短く息を吐く。端からみるとそれは男たちの間を剣舞でも舞うようにすり抜け、しかしその度に血の雨を降らせた。
 哲博の攻撃には一切の無駄が無い。
 敵の次の攻撃を完全に封じるために腕や足の腱を切り、甲冑の隙間などから急所を突いた。そしてそれらは一様に派手に死に花を咲かせて散った。
 故に、哲博の体は既に血で汚れていない箇所を探す事の方が難しい程になっていた。
 1人、逃した。クナイから伝わる感触で、絶命に至らなかった敵が居る事にすぐに気がつき、きびすを返す。
「うん・・・いててて・・・・」
宗一はこの時、意識を取り戻した。頭部と背中を打ったらしく鈍い痛みがあるが、寝てはいられないと体をゆっくりと起こした。その時、兜の顎紐が緩みごとりと地面に落ちたが、そんな音には全く気に留める事は出来なかった。
 驚きで、宗一は目を見開いた。
 自分の回りには血を流した死体がいくつも転がっており、流石にギクリとして宗一は思わず後ずさった。
 な、なんだ、これ・・・!誰が・・・!
 そう、思った時、ぎゃぁぁぁと引き裂くような断末魔が響き直ぐに止んだ。宗一は声が聞こえた方を見るとそこには哲博が背をこちらに向けてしゃがんでいた。
 宗一は、ほっとして慌てて声を掛けた。
「て、哲!そなた、平気なのか?この有様は・・・」
そう言うが早いか、哲博は立ち上がるとその手から力の無くなった男が一人滑って、地面に重い音を立てて落ちた。ゆっくり、振り返った哲博のその姿は、まるで頭のてっぺんから足の先まで朱に染め抜かれた様に真っ赤に染まっていた。
 木の下の、薄闇の中にいても、それが鮮血だとわかる程に。
「宗一さま」
哲博は己の姿に全く頓着が無いのか、にっこりと笑った。宗一から見たらそれはまるで赤い球体にぽっかり穴があいたように見え、それは確かに哲博なのだが、宗一にはそれがあの哲博とは到底思えずに呼びかけられても反応することが出来ずに、ただ、青ざめて眉間に皺を寄せた。
「大事ございませぬか」
余りの反応のなさに、哲博はどこか怪我をしたのではと心配になり、宗一に駆け寄り近くに跪くと手を伸ばして大きな目を心配そうに輝かせて宗一を見ている。
 ああ、近くでみれば、確かに哲博だ。宗一はそうは思ったものの、その手に答えることは出来ず、むしろ体を竦めてその手に触れまいと引いた。
 その宗一の様子にやっと気がついた哲博は、あ、っと声を上げ、血に濡れた自らの手に目をやって引っ込めた。
「も、申し訳ございません。このように汚れた身で御身を穢す所でございました」
そう言って、哲博は跪いたまま数歩下がり、ゆらりと立ち上がってゆらゆらと揺れる瞳で宗一をしばらく見つめた。その目を見て、宗一はズキンと胸の奥が痛むのを確かに感じた。
「洗い流して参ります。しばしお側を離れる事をお許しを・・・」
言い終わるか終わらぬかの所で、哲博はまるで掻き消えるように姿を消したから、宗一は目を見開いた。