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謀(はかりごと)

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「先だってこのようにお茶を飲み話しておった時、姉に家庭教師を横恋慕されたと申しておってな。それならば愛しい者の望みを叶えてやろうと思ったのじゃ。」
「また悪趣味な・・」

秘密の薔薇園で密会中の会話だ。
人を巻き込んでおきながらそんなことをいけしゃあしゃあと言うのが実の姉かと思うと頭が痛くなる。
彼女が此方の世界に来て直ぐに知り合いになった女王は、時計屋が見せた写真の帽子屋と自分の知り合いが酷似していて驚いたと茶飲み話で聞いていたのだ。あの時に、余所者を知っているかと聞いたのは、面識の有無でも探ったのだろう。
そしてそのあと意識して情報操作したに違いない。でなければ、情報戦を強いられている生業上、直ぐに掴めそうな噂の範疇の件が耳に入ってこなかったのはおかしい。
実弟であれ邪魔であれば排除する。これだ。
だが愚弟にそっくりの男が、自分の狙う余所者の初恋の相手と知り、落とす好機を待っていた姉は、まずは慰める振りで籠絡したに違いない。そしてより面白くするために、使えそうな実弟を舞踏会という催し物を利用しまんまとあの場所まで誘導したのだろう。
自己の欲望のために利用できるものはとことん利用する。邪魔ならば排除し、利用できるとなれば自責の念も罪悪感もなく手の平を返せる。目の前に居る女は、そういうやつだ。

我が姉ながら怖い女だと思う。だがそれは自分も同類だと自覚している。
退屈を紛らわせるためならば多少の犠牲は仕方がないと思う人種だ。血を見たければ何の理由もなく切り刻み、考え得る限りの非道を尽くせる。
それは、この体内を流れる血の所為かもしれないと思う。この血が呼ぶのだ。もっと滾り昂らせろと。

目の前で紅茶を飲む姉は、見目麗しい淑女だ。だがその血が冷酷無慈悲なことをさせるのだろう。身体の隅々までをその血に侵された宿命からは逃れられない。ハートの城の女王として生きるために。

「お前は何を良識ぶっておるのだ。人のことは言えぬだろう。お前も存分に楽しんでいたではないか。」
「そうだな。確かに。あの趣向は結構いけた。」

我々の所為で彼女は何処か壊れてしまった。それとも、元々壊れていたのか。この薔薇の園に自ら足を向け、こうして私の上に身を任せるのが常になっているのだ。今も、もう何度目か、彼女は疲れ果てこの腕の中で眠っている。

「アリスは幸せそうな顔をして眠っておる。そう思わぬか?」

そう言って笑う姉の顔は美しく、そして何故だかとても優しげに見えた。
作品名:謀(はかりごと) 作家名:沙羅紅月