こらぼでほすと 解除2
「春頃に降りて来るように頼んでおりますから、その時に用意しておきます。カガリの別荘でしたら、パーティーができるホールもございますから。エスコートはお願いいたしますね? 」
「ああ、そういうことなら任せてくれ。」
そんな会話をしていたら、あっという間に半時間が過ぎていた。輸液が、後四分の一ほどになっている。
「出発の準備は? 」
「終わっております。後は、ママの搬送だけです。」
「なんか実感が湧かないな。」
「そうですか? でも、事実ですから。」
「ああ、わかってるよ。」
そこで会話は途切れた。二人して、ポタポタと落ちている輸液を眺めていた。もうすぐ終わりそうだ。
ハイネは別荘へドクターたちを送ると、とんぼ返りしてきた。ヘリの乗員数の加減で、全員が一度には行けないからのことだ。移動用の医療ポッドの準備は、それほどかかるものではない。事前に、点検やらは終わらせているから、後は、ニールの身体を収めて調整すればいいというところまでは終わっている。万事順調だ。そろそろママニャンの点滴も終っているだろう。医療ルームの前に立って、はあーと大きく息を吐いた。まだ、油断してはいけない。刹那のところへニールを届けるまでが仕事だ。いや、ハイネは、そこからも仕事はあるのだが、そこまで辿り着けば治療に関しては組織の担当だ。もう、死ぬ瞬間の夢なんて見なければいいと願っている。刹那が、ニールの組織への復帰は全面拒否したから、ニールの所属は、『吉祥富貴』のままだ。ハイネたちがプラントへ戻るまでは、このままだと確定した。それも安堵することだ。親のないのや、いろいろと問題を抱えているのやらの精神的な受け皿として寺が存続してくれるのは、ハイネには喜ばしい。
・・・・よかったよな? ママニャン。でも、先は果てしなく長くなるぞ? ・・・・・
まだ口にはしないが、ハイネも内心で扉の向うに祝う言葉を贈る。そして、気持ちを切り替える。護衛陣は、すでにスタンバイの状態だ。携帯端末で、そちらを呼び出して待つ。
「そろそろかい? 」
すぐに、ジェットストリームな護衛陣もやってきた。こちらも顔は笑っている。
「ああ、どっちでもいいんだけど、ママニャンを担いでくれるか? 」
「お安い御用だ。」
「おまえがやらないのか? ハイネ。」
ヘルベルトとマーズが軽く茶化してくる。
「いや、そうしたいのは山々なんだけどさ。俺、そのまんま強奪しそうで、危険なんだ。」
「おや、あんた、とうとう三蔵に殺される覚悟ができたのかい? そういうことなら、ママの治療が終わったら、そのまんまプラントへ駆け落ちしな。それなら、あたしたちがフォローしてやるからさ。」
「そうだな。それなら追い駆けてこれないな。」
「・・・・ヒルダ、俺は三蔵さんもだが、悟空も怖いぞ? 」
「ちげぇーねーな。あいつなら追い駆けて来て取り戻すに違いねぇ。」
四人で、大笑いして扉を開ける。そんな冗談が言えるぐらいに気分が高揚しているらしい。
「おまちどうさま、ママニャン。それじゃあ、俺との駆け落ちと洒落込もうぜ? 」
扉の開くのと同時に、ハイネが一発かますと、ニールとラクスは温い目をした。
「どいつもこいつも浮かれやがって。」
「まあまあ、ママ。・・・ハイネ、終わっておりますよ? 」
「了解。」
この場で処置できるのが、ハイネだけだから、点滴の針を外し、そこを止血するまでをやる。その間に、歌姫様が毛布を用意して持って来た。
「じゃあ、エンジン回してくるから、ゆっくり来てくれ。」
それだけで、ハイネは外へスタスタと出て行く。ヘリの運転手だから、そちらの準備があるからだ。ヒルダが歌姫様から毛布を預かり、それをニールの肩にかける。それから丸薬を取り出した。水も、すでに用意している。
「ん? これ・・・」
「悟空から預かりました。本日の分です。」
「けど、ラクス。これを飲んだら、俺、寝ちまうぞ? 」
「ええ、ヘリの移動ですから気圧の問題はないと思いますが、念のためです。」
差し出された三粒の丸薬を目にして、これで次に目が覚める時は、全てが終わっているんだな、と、考えた。
「次のお目覚めは宇宙ですよ? ママ。」
ニールの考えに気付いたラクスが笑いかける。実感はないだろう。眠ったままで宇宙まで運ばれてしまうのだ。
「俺は寝ちまうから、後は任せた、ラクス。」
「承りました、ママ。どうぞ、娘の私にお任せを。」
どうなろうと自分には、どうにもできないが、娘のラクスは信用している。だから、クスリを口にすると水で一気に飲み込んだ。
それを確認してヒルダが、マーズに声をかける。
「マーズ、頼んだよ? 」
おう、と、マーズが、毛布ごとお姫様抱っこをしようとするので、いやいやいやいや、と、ニールが後退さる。
「歩けます。」
「ふらふらして骨でも折るつもりかい? ママ。」
「ヒルダさん、外までで、そんなことはないですって。」
と、ニールが歩き出そうとしたら、足がふらついた。慌てて、ラクスが腕を支える。
「軽い安定剤が入ってるんだよ。だから、大人しく担がれな。」
あまり興奮するのもよくないだろうと、栄養剤とナノマシンの他に、そういうものも添加されていたらしい。ほらな? と、マーズが担ぐ。
「すいません、マーズさん。」
「この礼は、帰ったら家庭料理で、もてなしてくれ。」
「はいはい、暇ならいつでも食べに来てくださいよ。」
「ママニャン、俺にも頼むぜ? 」
「もちろんですよ、ヘルベルトさん。うちはオールセルフサービスですから、いつでも、どうぞ。」
ヒルダは、歌姫様の護衛に専念する。前をヒルダ後ろをヘルベルトだ。その後から、マーズがニールを運ぶ。裏庭のヘリポートまでは、僅かのことで、すでにヘリのローターは軽く回転して準備オッケーな状態だ。シートに固定される頃には、ニールはすでに眠りの中だ。
作品名:こらぼでほすと 解除2 作家名:篠義