こらぼでほすと 解除2
「治療って言っても、濃縮したGN粒子を浴びるだけらしいから、何もないんだと思うけどな。・・・・・なんか、おかしな気分だよ。治るとは思ってなかったからさ。」
ダブルオーが完成すれば治療を受けられるとは聞かされていたが、それほど喜ぶ気分でもなかった。それなのに、あれよあれよという間に手配は終わって、今夜、とうとう宇宙に上がる。ニールにしてみれば、よくわからないうちに事態が推移している。みんな、ニール当人より治療が出来ることに大喜びで、そんなに心配をかけていたのだと気付かされた。足枷の重さを感じた。この間のダウンの後で、三蔵にも言われたが、今は時期ではない、というのは本当らしい、と、内心で苦笑している。
「治すと最初に申し上げたと思いますが? 」
「うん、そう言われてたけどさ。」
『吉祥富貴』に救助された時から、細胞異常は治療する方法を探す、と、歌姫様に宣言されていた。とはいうものの、開発も終わっていない治療方法なんてものは、できないんだろうと思っていた。リジェネの報告で、なるほど自分は生きているのも不思議な状態だとも納得していたから、このまんま死んで逝くんだろうな、と、漠然と考えていたのだが、刹那がダブルオーを再生させて、治療できるまでに漕ぎ着けてくれた。これで健康な状態に戻れると頭では解っていても、気持ちはついていかないのが、実際のところだ。
「次にお目覚めになられたら、細胞異常は完治しております。・・・・とても長くかかりました。ごめんなさい、ママ。」
「なんの謝罪だ? ラクス。おまえさんは、探してくれたんだろ? 俺が礼を言うことはあっても、おまえさんが謝ることはないと思うぞ。」
「ですが、長く、ママに辛い思いをさせました。」
「・・・・そうでもない・・と、思う。その間に、世話するのが増えて楽しかった。おまえさんまで、娘になるしさ。・・・はははは・・・そう考えると、世の中って悪いことと良いことが混ざってあるんだなって思うよ。」
随分と体調の悪いのには苦しめられたが、その代わり、年少組や歌姫と繋がりは持てた。それにじじいーずやら同年代組とも親しくなった。そう考えれば、悪いことばかりではなかった、とは思う。
「ママが、私たちを甘やかすから、こうなったのですわ。」
「別に、それはいいだろ? 俺は、おまえらの余暇担当なんだからさ。たまには甘やかされておけばいいんだ。仕事では気張ってるんだから。」
「ええ、ええ、そうです。私たちも刹那たちも、ママが甘やかしてくれるのが嬉しいことでした。これからもお願いいたします。」
ニコッと笑って、ラクスは軽く頭を下げる。
「組織への復帰は、刹那から却下されちまったから、『吉祥富貴』の日常担当のまんまだよ、ラクス。」
「そうしてください、ママ。私たちもママの特殊技能を活用するつもりはございません。できれば、お寺で、おやつを作成してくださるほうが有用です。もう、その手で武器を使うことはしないと約束してください。あなたの娘としては、あなたを危険に晒す真似は認められません。」
優秀なスナイパーだったから、知識もあるし技能もある。だが、ラクスにとって、そんなものは、おかんに必要ではないし、そういう場所へ出向くような仕事はさせたくない。刹那たちが危惧することは、ラクスたちも危惧することだ。自分より他のものを優先する考えでは、自分も生き残るという選択をしてくれない。そんな人間に、武器を持たせるような場所へはやりたくないのだ。
「いや、体調が戻ったら射撃の腕くらいは取り戻しておくさ。何かあった時に使える。」
「・・・・何かって? まだ、マイスターに戻ることは諦めておられませんの? 」
「そっちは諦めてるよ。ライルがロックオン・ストラトスの席に座ったからな。そうじゃなくて、おまえさんのほうだ。護衛ぐらいはできると思うぜ? 」
「護衛? まあ、そんなものは足りておりますわ。どちらかと言えば、何かあったら私がママを守りますから。これでも、コーディネーターです。ママを守るぐらいはできます。」
この人を矢面に立たせるぐらいなら、自分が前に出る。そのほうが気分的に楽だ。
・・・だって、ママは私を自分の命を楯にしてでも守ってくださるでしょう? そんなことをされたら、私は立ち直れません・・・・
ラクスは、そうは考えない。自分が生きている前提でないと、『吉祥富貴』は崩壊するからだ。どうあっても生き残って、最終的に勝てればいい。そのためなら、どういう苦渋の選択だろうと飲み込める。そこで終わりではない。そこから先があるから耐えられると思うのだ。
「おまえさんが、俺を? くくく・・・そんなことしてみろ。俺は全宇宙中のファンに抹殺指令を出されるぞ? 」
「その時は、私が、ママを、『大切な方』だと、皆様にお知らせいたします。」
「こらこら。」
「事実でございます。何も問題はございませんでしょう? 」
「山ほどあるぞ。メイリンが発狂するようなことするな。事態の収拾つけるのが怖い。」
その紹介の仕方だと、歌姫様の恋人という意味になる。そんな怖いことはされたくない、と、ニールが叱る。
「では、『母のようにお慕い申し上げているお方』では、いかがです? 」
「俺は男だよ。」
「でも、ママが父というのはおかしいですわ。」
「兄ぐらいにしておくと波風立たないんじゃないか? いや、それも怖いか。とりあえず、スタッフの一人ぐらいでいいだろう。」
「スタッフ? ママが私のスタッフになってくださいますの? うふふふ・・・それは好都合。でも、単身赴任させたら、キラたちみんなに叱られますわね。」
「仕事を手伝うぐらいはさせてもらうぜ? 身体さえ治れば、どこへでも行けるんだから。・・・てか、単身赴任って何をさせるつもりだ? 」
「ママを私の付き人に。うふふふふ・・・それなら仕事の後で、ゆっくり寛げるのでストレスも減ります。」
「おまえさん、今、本気で算段してるな? 」
「もちろんです。ただ、三蔵さんが暴れるような気がいたしますよ? ママ。」
「暴れるだろうな。フルタイム寺の女房をしてろって言ってた。」
「本格的に寺の女房になられるなら、結婚式をしなくてはいけませんね。キラも以前に勧めておりましたし、私も賛成です。」
「・・・おまえら、俺で遊ぶのはやめてくれ。」
「お色直しは何回します? 三蔵さんの民族衣装と、ママのほうと、それから特区のものも・・・ということは、合計三回ですわね。」
「・・・ラクス・・・・」
「さすがにウェディングドレスはやめておきますね。その代わり、白と黒のモーニングは外せません。絶対に、ママはお似合いですもの。私とフェルトが先導させていただきますから。」
舞い上がっている歌姫様は楽しそうに、結婚式の段取りを口にする。式場は、どこがいいだろうとか、披露宴は、中華風がいいだとか、席順はどうとか、牧師はどうしようか、とか、とても楽しそうだ。ニールのほうも適当に相槌を打ちつつ笑っている。実現はしないはずだから、気楽な夢物語を聞いている気分だ。
「フェルトに、そういう衣装は着せてやりたいな。」
作品名:こらぼでほすと 解除2 作家名:篠義