ゆらのと
第一部 四、
銀時は吹く風に肩を震わせた。
秋も深まり、夜になれば水の中にでもいるかのような冷たさだ。
まして、今、山にいる。
気温は高い場所に行くにつれ下がる。
銀時は山の中腹にある廃寺の門へと続く階段を足早にのぼっていた。
廃寺には、銀時が属している攘夷軍が潜伏している。
銀時は他の攘夷軍と連携するために使者として出て、その潜伏先から帰ってきたところだ。
話はうまくまとまり、予定より二日ほど早くこの寺にもどってこられた。
使者は銀時だけではなく、もうひとりいた。
「それにしても寒いの〜」
隣で脳天気な明るい声がした。
長身の男がブルブルと身を震わせて歩いている。
坂本辰馬だ。
他藩の出身で、この軍で知り合った。
陽気で、人懐っこい男で、どうやら銀時のことが気に入っているらしくて、やたらと話しかけてくる。
銀時はうっとうしいので邪険にしていたが、それでも坂本がまったく気にせず話しかけてくるので、諦めて、適当に相手をしてやるようになった。
以前、桂が銀時と坂本を見比べて、いいかげんな性格と癖毛であることが同じだと真顔で言ったことがある。
いいかげんな性格なのはともかくとして、あんな毛玉と一緒にするんじゃねェ。
あのとき、銀時は怒って抗議した。
銀時は毛玉とともに門を通りすぎる。
境内は静まりかえっている。
もう、皆、寝ていてもおかしくない時刻だ。
しかし。
少し進んだところにある庫裏の戸が少し開いていて、そこから灯りがもれている。
庫裏は台所であり、そこで寝起きしている者はいないはずだ。
「こっそり宴会でもしちゅうかの〜」
坂本も気づいたらしくて、そう小声で言った。
「かもな」
銀時はニヤと笑う。
山の中の廃寺に潜伏し続けていると、たまに息抜きもしたくなる。
仲の良い者たちが寝床を抜け出し、庫裏に集まり、楽しく酒を飲んでいるのかも知れない。
「驚かしてやろうぜ」
小声で坂本に提案した。
坂本はうなずいた。
ふたりそろってニヤニヤしながら、しかし足音を忍ばせて庫裏のほうに近づく。
そして、戸のすぐそばまで行った。
庫裏の中から声が聞こえてくる。
「……だから、銀時のいないうちに」
自分の名前を聞いて、銀時は眉根を寄せた。
俺がいないうちって、なんだ。
不穏なものを感じた。