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ゆらのと

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しかし。
「……銀時」
胸にもたれかかっていた身体に力が入り、背筋が伸ばされるのを感じる。
「俺は、帰る」
凜とした声で、桂は告げた。
その背中が胸から少し離れ、腕の中に閉じこめていた腕が動いてゆるやかにふりほどこうとする。
それでも、腕の力をゆるめずにいる。
放したくない。
「銀時」
ふたたび名を呼ばれた。
強い意志のあらわれた声。
「おまえは、一度、俺じゃないほうを選んだのではなかったか」
その声が胸に突き刺さった。
たしかにそのとおりで、そのとおりだからこそ、痛い。
「別に責めているわけじゃない。そうするしかなかったことは、理解しているつもりだ」
桂は続ける。
「ただ、頭が理解しても、心がそれについていかないこともある。さっき、私情は捨てると言ったが、捨てるまえにはそれなりに思うことがあるということだ。同じことを繰り返すのは、正直、避けたい」
そう話す口調は淡々としていた。
だが、感情を無理に押し殺しているようにも感じる。
「これが俺の話せるぎりぎりだ」
さらに、桂は言う。
「だから、もう、勘弁してほしい」
そう言われたら。
どうしようもない。
気の強い桂が勘弁してほしいなどと頼んできたことを思うと、その心情を思うと、また胸がひどく痛んだ。
放すしかない。
放したくなくても。
そうするしか、しかたないじゃねェか。
胸が痛くて苦しいのが自分だけならいい。
だが、そうでないなら。
腕の力をゆるめる。
そして、腕を身体の横へおろした。
それでも桂は動かずにいて、しかし、それはほんの少しの間のことで、その身体はすっと離れた。
桂が部屋から出ていく。
それを、自分は呼び止めることすら、できない。
ただ、無言で立ちつくしている。
しばらくして、階段をおりる足音が聞こえてきた。
その足音すら、自分にとっては大切なものに感じて、耳をすます。
しかし、その足音はどんどん小さくなり、やがて、まったく聞こえなくなった。
畳に無造作に腰をおろす。
あぐらをかいた足の上に、腕を置く。
ついさっきまで、この腕の中には桂がいた。
そして、今は、もういない。
痛烈なさびしさを感じる。
さっきまで、ここにいた。
その温もりは、たしかに、ここにあって、自分に触れていた。
その姿は、暗い眼の裏に、光のようによみがえってくる。
ここから出ても、きっと同じように思い出すだろう。
忘れることはできないだろう。
「……あきらめられねーよ」
ボソッと、強い口調で言う。
口に出して、心を決めたかった。
あきらめられない。
だから。
「絶対ェ、あきらめねェ」
桂の心は自分のほうを向いている。
それなのに、あきらめることは、できない。
桂がどうしてもダメだというのならしかたがないが、それ以外のことが理由なら、あきらめきれない。
だいたい、最初からあきらめていて、どうする。
解決方法があるかもしれない。
それを探す。
絶対に見つける。
そう心に決めた。












作品名:ゆらのと 作家名:hujio