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ゆらのと

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桂は情がこまやかなほうだが、大勢の上に立ち、さらに彼らを引き連れて戦場という過酷な環境すら駆け抜けてきたのだから、その情を捨てざるをえない状況を何度も経験してきたはずだ。
そのたびに心をどれだけ痛めただろうかと思う。
だが、それでも背負い続けてきた。
今でも背負っている。
最終的に、桂は己の幸せを判断基準にせず、まわりの者にとって良いかどうかで判断する。
私情を捨てる、と断言した桂の決心をひるがえさせることはきわめて困難だ。
桂が立ちあがった。
足を進め、そして、横を通り過ぎていった。
背後で、桂が帰るために身支度を整え始めたのを感じる。
その衣擦れの音を、ぼうぜんと座ったまま聞く。
しばらくして、桂が歩きだしたのを感じ取る。
もう身支度を調え終わり、ここから去っていくのだろう。
決心した桂を止めることはできない。
だから、どうしようもない。
頭はそう告げる。
けれど。
本当にこのまま行かせてしまってもいいのか。
胸にそう問いかける声が響いた。
しかし。
止めたってムダだ。
そう思う。
だが、自分の気持ちは。
自分の気持ちは、一体ェ、どうなんだ。
行かせてしまっていいのか。
違う。
そうじゃねェ。
行かせてしまっていいのか、じゃねェ。
行かせたくねェ、だろ。
そう強く思った。
胸が熱い。
立ちあがる。
激しく揺れる感情に支配され、なにも考えずに、動く。
桂が足を止め、こちらのほうを向いた。
それ以上の反応をするまえに、防御するまえに、その身体をとらえる。
うしろから、その身体を腕の中へと収める。
桂の堅い決心がひるがえったことが一度もないわけじゃない。
一度もないなら、桂は今ここにいない。
以前は男と関係を持つことはまったくありえないと考えていて、きっぱりと拒絶もしたのに、無茶な選択を迫られたとはいえ、関係を持つほうを選び、そして、今は友情以上の気持ちがあることを暗に認めている。
ひるがえらないわけじゃない。
動かせないわけじゃない。
だから。
抱く腕に力を入れる。
放したくねェ。
行くな。
ありったけの想いをこめて、抱く。
愛している。
だれよりも。
その想いが伝わるように、抱く。
桂の心が動くことを、願う。
ふと。
腕の中で、強張っていた桂の身体から力が抜けた。
胸に触れている背中が少し重くなって、その身体が預けられたのを感じた。
作品名:ゆらのと 作家名:hujio