二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ゆらのと

INDEX|128ページ/373ページ|

次のページ前のページ
 

一番若い党員は虚を突かれたような顔をした。
少しして、その肩を、さっき彼をたしなめた党員が今度はなだめるように軽く叩いた。
その後、攘夷党は今回の将軍の暗殺計画には参加しないことが決定した。
散会となり、帰ろうと部屋を出たところで、桂は党員のひとりに呼び止められた。
「桂さん」
足を止めて、そちらのほうを見る。
先ほどまでの会合でまったく発言していなかった党員がいた。
普段から寡黙で、不言実行という言葉が似合うような頼りになる志士だ。
そんな彼がいったいどうしたのだろうかと、興味がわく。
「なんだ」
「暗殺計画への参加に反対したのは、計画にあやうさを感じたからではなく、武士だからではないのですか」
そう問いかけた眼は、桂の腰に差した刀を見ていた。
刀は武士である象徴だ。
そして、武士の頂点に立つのは、将軍である。
その将軍を暗殺する、主君を弑することに抵抗があるのではないか。
そう問うているのだろう。
桂はふと口元をゆるめた。
頬に微かな笑みが浮かぶ。
「知っていると思うが、俺は徳川に負けた大名の藩の出身だ。毎年、正月には、殿にそろそろ幕府を倒す頃ではないかとお伺いする儀式があったような藩だ」
殿、と、ずいぶん久しぶりに口にしたと思った。
昔は、自分にとって絶対であったのは将軍ではなく藩主であり、幕府ではなく藩だった。
あの頃の自分には、将軍の存在は遠すぎ、幕府は大きすぎた。
自分の世界は狭かった。
しかし、その世界を愛し、大切にしていた。
それは今でもそうだ。
あの頃のことを思い出す。
いろいろなことがあった。
その思い出は胸の中できらきらと輝いている。
もうもどれないから、いっそう、そんなふうに感じるのかもしれない。
思い出を胸の奥底へとしまいこむ。
ただ懐かしむだけではすみそうになかった。
鮮明な記憶の輝きや温もりは、胸にギリッときしむような痛みを感じさせた。
心をかき乱される。
今、それは、まずい。
党首として堂々としていなければならない。
「だから、参加に反対したのは、どうにも胡散臭いような気がしたからであって、それ以外の理由はない」
断言した。
「……そうですか」
少し間を置いてから返事したあと、党員は静かに桂から離れていった。
もしかすると、将軍を暗殺するのに抵抗があるのは、彼のほうなのかもしれない。
そう思いながら、桂は階段をおり、そして家から出た。
しばらく歩いているうちに、遠くに城があるのが見えるようになった。
江戸城である。
あそこに住んでいるヤツが、この世で一番かわいそうなヤツなのかもしれねェな。
ふいに、そうひとりごとのように言った声が、桂の耳によみがえってきた。
銀時の声だ。
それを思い出して、胸がまたギリッときしんだ。
作品名:ゆらのと 作家名:hujio