ゆらのと
どうしても、どうしても、こいつがいい。
こいつがほしい。
ただそれだけを思い、そのほとばしるような激しい想いをもう抑えることができなくて、桂の肩を強くつかんだ。
桂はハッと驚いた表情になった。
「なん……」
なんだ、と言おうとしたのだろう。
しかし、それを無視して、つかんだ肩を引き寄せる。
「おい……!」
引き寄されないようにと桂の身体に抵抗する力が入ったのを感じた。
だが、剣の腕前では互角でも、力は圧倒的にこちらのほうが強い。
自信があった。
腕にいっそう力を入れ、あぐらをかいていた足を崩し、胸のほうへと桂を強引に引き寄せる。
あっけなく桂は引き寄せられて、その身体を腕の中に抱く。
抱いたまま、畳へと倒れる。
畳にぶつかったとき、衝撃があった。
けれども、そんなことはまったく苦にならなかった。
腕の中に桂がいる。
この腕に、桂の身体を抱いている。
すぐそばにそのほっそりとした身体がある。触れている。
ずっとこうしたいと思っていた。
何度も夢を見た。
今も夢を見ているみたいだ。
抱く腕の力を強くする。
感触が、体温が、よりいっそう伝わってくる。
胸にこみあげてくるものがあった。
おまえのことが好きなんだ。
好きだ。
だれよりも。
好きだ。
その熱い想いは脳天まで駆けあがり、頭はただそれだけになる。
「銀時」
腕の中で、桂が名を呼んだ。
その声を聞き、腕の力をゆるめ、身を少し起こす。
桂を見おろす。
その色白の顔には戸惑いの表情が浮かんでいる。長く艶やかな黒髪は畳の上で扇を少し開いたようになっている。
その髪をなでる。
この髪の一房でさえ、いとしい。
絶対に、この先、一生、大切にする。
だから、これからすることをゆるしてほしい。
そう強く思った。
これまでずっと胸の奥底へと無理矢理にしまいこんでいた感情に、火がついてしまった。
その熱情に揺り動かされ、長い年月を経て溜まりに溜まっていた想いが、激流となって溢れ出てくる。
想いを告げようとした。
ゆるしを得ようとした。
そのために口を開きかけた。
だが、先に桂が言った。
「銀時、おまえ、疲れているのか?」
嘘だろ。
そう思い、ぼうぜんとする。
一方、桂は真顔で続ける。
「今日はもう寝たほうがいい。この先どうするかは、明日、話し合おう」
心の底からそう思っている様子だ。
なぜ、この状況で気づかない。
さっき、坂本は言った。
銀時にとって桂は掌中の珠、最愛の者、だと。
坂本は大雑把ではあるが、勘はかなり鋭い。
だから、気づいたのかもしれない。
けれど。
それにしたって、どうしてこの状況で気づかない。
胸に引き寄せ、腕に抱いて、畳へと倒し、息が触れそうなほどの至近距離で見おろしているのに。
なんで、気づかないんだ。
結局、それは。
それは。
そういう対象として、これっぽっちも見てないからじゃないか。