ゆらのと
銀時は驚いた。
なぜ桂が今そんな提案をしてきたのか、考える。
桂は話を続ける。
「どこでだってやっていけるさ。幸いにして、俺たちは強いからな」
そう告げた口元には、また笑みが浮かんでいた。
その笑みを見て、わかった。
桂は自分のことを気遣っている。
発端は、自分があの五人ともめたと言ったことだ。
それで桂はもめた理由を考えたのだろう。
そして、まさかあの五人が自分を陵辱しようと計画していたとは思わず、過去に何度もあったように銀時の外見の問題だと思ったのだろう。
バカだと思った。
勘違いしたことに対してではない。
桂は言った。
どこでもやっていける。
自分たちは強い。
その通りだ。
桂は強く、どこでもやっていけるだろう。
桂ひとりなら、最初からどの軍でも歓迎されただろう。
自分が一緒でさえなければ、各地の軍を転々とすることはなかったはずだ。
それなのに。
今もこうして、そのことには触れず、ようやく落ち着いた場所から離れることをさらりと提案してきた。
自分が一緒でなければする必要のない、いらない苦労を、桂はまたしようとしている。
そもそも、自分がいなければ、桂が攘夷軍に参加したかどうかわからない。
桂は裕福な家の生まれで、幼い頃に隣家から望まれて養子に入ったが、その養子に入った先は身分の高い武家だった。
つまり、桂は藩にとどまっていれば、身分の高い家で裕福な暮らしができたのだ。
それを捨て、脱藩の罪を犯し、もう二度と生まれ故郷にはもどれないかも知れなくなった。
自分の意志だと桂は言った。
たしかにそうだろう。
桂は頑固なぐらい意志が強い。
親しい者がそうするから自分もそうするということはない。
桂本人の意志で決断したことに間違いない。
ただ、事の経緯を考えると、その決断に自分のことが大きく左右したような気がする。
桂は裕福な暮らしや身分の高さにはこだわらなかっただろうが、あの頃、家や親しい者たちを捨てることになるのを悩んでいた。
だいたい、ひとりで旅立つこともできたのだ。
ひとりで行動することを恐れはしないだろう。
それが、自分と一緒だった。
それ以前に互いに相談していたわけではない。
自分が言い出したときに、桂は心を決めたのだ。
裕福な暮らしも、高い身分も捨て、親しい者たちから離れ、罪人となり、自分とともに戦に身を投じることを。
本当に、バカだ。
そう銀時は強く思った。
バカで、バカで、どうしようもない。
それはけなす言葉であるのに、胸に湧いた想いは温かいものだった。
いとしいと、思う。
口に出すことも、認めることもできない感情が、たしかに、自分の中にある。
どうしても。
どうしても、どうしても。
ほしい。
ください。
ゆるしを。
腕を伸ばした。