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ゆらのと

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「アジン様から聞きました。私があれ以上のことをされないために、そして、午後も仕事を休めるようにする代わりに、あなたがなにをされたのか」
それを聞き、あの男からされたことを思い出した。
あのときに感じた嫌悪もよみがえってくる。
「あなたの身体がどんなふうだったのかも、聞かされました」
無意識のうちに、歯を強くかみ合わせていた。
不愉快だ。
あの男は、きっと、指を入れたことも話したのだろう。
想像がつく。
身体をもてあそんだことを話して、それが自分のものであると主張する。
そのうえ、トアラに罪悪感を抱かせる。
「ご存じでしょうが、あのひとは本当にひどいひとです」
トアラの口調が少し強まった。
「特に、閨ですることがひどいのです」
その眼が伏せられる。
わずかに眉根が寄せられて、その顔にめずらしく表情が浮かぶ。
なにかを思い出しているような、そして、その記憶に苦しめられているような表情だ。
その記憶は、見ただけのことではなく、自分の身で経験したことだろう。
「私は、一生、結婚することはないでしょう」
トアラは顔をあげて、言った。
「勝手なことかもしれないが、男が皆ああだとは思わないでほしい」
「わかっています。でも、どうしても心が受けつけないのです」
しかし、その心が受けつけないことを、その原因となったあの男は強要するのだろう。
「……初めてこの屋敷に来られたとき、アジン様が違う星の小国の姫君をさらってこさせた話をしたのを覚えていますか」
「ああ」
桂はうなずく。
「壊れてしまったと聞いたが」
「姫君は亡くなられました」
トアラは無表情で、しかし、強い声で告げた。
「私は姫君のお世話もしました。お亡くなりになったときは、突然死したのだと聞かされました。なにかの病だろうと。でも、私はアジン様の寝室から運び出される姫君の遺体をちらっとだけ見ました。姫君の名誉のために、あまりはっきりとは言いたくありませんが、病で亡くなられたようには見えませんでした」
故意ではなかったのだろうが、あの男が死に追いやったのだろう。
「姫君をお世話していた期間は長くはありませんでした。ですが、姫君はよほど心細かったのでしょう。私を頼りにされているようでした」
トアラは、ふたたび、眼を伏せた。
「でも、私は姫君を助けることはできませんでした」
頼られて、その期待に応えたかったのだろう。
助けたかったのだろう。
「できることなら、私はあなたをこの屋敷から逃がしたい。私をかばってくださったあなたに、私や姫君が受けたのと同じような仕打ちを受けさせたくないのです」
その気持ち嘘でないことは、無表情であっても、伝わってくる。
だが。
「トアラ、ありがとう」
彼女にそんなことはできないのは、知っている。
無理だと、わかっている。
「俺の身体は頑丈なんだ。だから、大丈夫だ」
本当は、あの男のすることを想像しただけで、ぞっとする。
けれども、それは自分の中に隠しておく。
作品名:ゆらのと 作家名:hujio