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ゆらのと

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手のひらの下で銀時の手が動いた。
だから、手を離し、腕をおろす。
銀時の手も離れ、その腕もおろされた。
うしろから抱かれていたのが、解放される。
止まっていた足が、動く。
まえへと。
畳を進み、やがて布団まで行った。
そこに腰をおろす。
正座した。
正面に、銀時があぐらをかく。
その顔を見る。
眼が合った。
銀時は怯むことなく、むしろ切りこむように見返してくる。
見慣れた顔だ。
幼いころから知っている顔だ。
月日が過ぎるのとともに、その顔は少しずつ変化し、大人の男の顔になった。
同じ時をすごしたぶんだけ、いろいろな顔を知っている。
その思い出は自分にとって大切なものだ。
失いたくないものだ。
過去だけじゃない。
今の、眼のまえに座っている者のすべてを。
失いたくない。
強く思った。
「なァ、銀時」
呼びかける。
「俺は知りたい。おまえが隠してる、見せたくないと思っているような気持ちも俺は知りたい」
どうしたら伝えられるだろう。
自分の中にある想いを、どうしたらうまく伝えられるだろう。
「明るくて楽しいことばかりじゃなくていい。暗くて重いことだって知りたい、話してほしい」
うまく伝わる言葉を探しながら、話す。
「今じゃなくてもいい。いつかでもいい。全部じゃなくてもいい。少しでもいいから、話してほしいんだ」
伝わることを願いながら、話し続ける。
「苦しんでいるなら、話してほしい。その痛みをわけてほしい。ひとりで苦しまないでほしい。そばにいるのになにもできないほうが、俺はつらい」
自分ひとりで背負いたがる銀時の眼に見えない殻を突き破ることを願いながら、告げる。
「俺はおまえのことを大切に思っているから」
膝の上に置いていた右手をあげ、それを銀時へと伸ばす。
銀時はその手をじっと見る。
そして、つかんだ。
身を乗り出してくる。
「……まったく、てめーはタチが悪いんだからな」
ひそやかな息づかいでさえ感じ取れるような距離で、銀時はささやく。
「てゆーか、それ、他の男には絶対に言うなよ」
言うものか、おまえだから言ったんだ。
そう言い返そうとしたが、口をふさがれた。
逃げずに、押しつけられた唇を受け止める。
軽くついばむように触れただけで離れた。
間近で銀時が見ている。
その手が頬をそっとなでる。
慈しむように。
口が開かれる。
「好きだ」
顔を寄せてきて、距離が縮まり、なくなる。
作品名:ゆらのと 作家名:hujio